クイズムリオネア、司会のみのびんたです
スタジオの半周以上を囲む観客席は熱狂した拍手を彼に浴びせた
テレビのクイズショウ司会者は片手を上げて応え、
見計らって手を下ろすと拍手は鎮まった
今夜の回答者は
晩のことだった
ぼくはカップ麺をすすりながらテレビのクイズショウを見ていた
今夜の回答者は、とクイズショウ司会者が言った
こちらのお嬢さん、画面が回答者席に切り替わった
すすったばかりの麺が反転し、上下の唇を割って空中に飛び出した
そのときのぼくは空間に放射状に展開した麺を回収できると思ったらしく、
しかし、勢い込んで吸って入ってきたのは気道に熱い湯気だった
咳き込むぼくの視界は涙で滲んだ
手探りでテーブルに置いた薄いスチロールの容器は熱でやわらかく曲がった
涙で滲んだ回答者の席には姉が座っていた
姉は一年前から行方不明だった
一年ぶりに見る姉の笑顔はテレビ画面の四角い枠に収まっていた
ぼくは咳き込みながら実家の両親に知らせようと
携帯電話をズボンのポケットから引き出した
第一問
量子論的なお嬢さん、あなたは真っ暗闇の箱の中に閉じ込められている
これから二分の一の確率で箱の中に空気かガスが注入される
量子論的なあなたはいま、生きていながら死んでいるのか?
あ、母さん? テレビ、そうそう、見てた、そうそう、姉ちゃんが
はよテレビ局に電話して、あ? おれと電話してるからかけられん?
アハハじゃなか、親父の携帯使ってよ、もう
正解!
あれ? 母さん? ちょっと! おーい!
母親の電話が切れ、テレビ画面には九州の実家が映し出された
さあ、お嬢さんの親御さんからスタジオに応援のメッセージを送ってもらいましょう
観客席からいっせいに拍手が湧き起こった
実家の玄関を照らし出した強いライトの光の中に
黒覆面の男たちに引きずられて
父親と母親が出てきた
戸惑っていた彼らは自分たちに向けられたカメラを見つけると
表情を取り戻して笑顔を浮かべる
あんたはわたしに似て無理ばするけん、身体に気をつけんばよ!
母親が言い終わると黒覆面の男たちは両親に向けて銃を乱射し
父親と母親の身体はくるくる回って玄関に激突、実家爆破、ドカーン
第二問
チューリングテストをするお嬢さん、あなたは壁の向こうにいる何者かに質問している
亀が砂漠でひっくり返っている。手足をばたばたさせているが
ひっくり返った亀は自力では元に戻れない。あなたは助けるか?
何者かは答える
どこの砂漠かを教えてくれなければ助けに行くことができません
この何者かを人間と判定したとき、あなた自身が人間である確率はどの程度あるだろうか?
丸く切り取られた天井が落下してきて
テーブルと
そのテーブルの上に置いた食べかけのカップ麺は下敷きになった
ロープを伝って黒覆面の男たちがぼくの部屋に降りてきた
ひとりはカメラを回していて、ぼくに向けていた
正解!と司会者が言い、弟さん、お姉さんに応援のメッセージをどうぞ
ぼくは言った、姉ちゃん、帰って来い!
覆面のひとりがカメラの前でひざまづかせたぼくの髪の毛をわしづかみにし、
のけぞったぼくの首にナイフを滑らせる
またもやぼくは咳き込み、しかし、咳き込んだと思ったが
血の泡が出たのは切り裂かれた喉の途中からだった
ぼくは喉の裂け目を両手で押さえる
男たちは機材を肩に担ぎ、ぼくを部屋に残して扉から一列になって出て行った
いよいよ最後の問題です
家から出て行くとき、姉は子供を産んで三人で幸せに暮らすつもりだと言っていた
ぼくらが全員反対したのは、相手の男が定職についていなかったからだ
案の定、男に逃げられたお嬢さん、それでもあなたは子供を産みますか?
産みます
ファイナルアンサー?
産みます!
不正解、残念!
テレビのクイズショウ司会者は拳銃を背広の内側から取り出すと
自分のこめかみを撃ち抜いて死んだ
観客席の全員も拳銃を取り出し、銃口を自分たちのこめかみに当てて
いっせいに引き金をひく
熱烈なる拍手で祝福されるなか
姉は出産した
ぼくは静かになった部屋のすみで身体を丸め
切り裂かれた喉からこれ以上こぼれないように両手で押さえていた
地上波デジタル放送に対応したテレビの画面に映った姉に
ぼくはおめでとうと言うべきなのか
迷っていた
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作品 - 20091211_136_4018p
- [優] 遺影 - ゼッケン (2009-12)
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遺影
ゼッケン