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作品 - 20091110_300_3934p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


これは夢、yume

  はるらん


湖畔のベンチに寄り添うふたりの
頬をを若葉の風がやさしく撫でていった
いつも綱渡りのような、あなたと私だけれど
ときおりこんな風が吹いてくれるなら
明日もきっと、おはようが言えるだろう

春の甲子園で地元の高校はPLに勝って
ベスト8まで進み空はまだ青空のままだった
私はあなたとおそろいの金色の時計と
じいちゃんの新しい髭剃りをトライアルで買った

娘の新しい筆箱を探しにゆめタウンまでゆこう
右手には手芸屋さんがあり、左手にはファミレス
「おまえ、たまには運転しろよ、俺がいなくなったら、どうするん?」
私は笑いながら、そんなことはまだ何十年も先のことと思っていた

彼は小学生の時に左目を失明している
同級生にバットで殴られたのだ
それでも普通に大学を卒業し就職し結婚もした
ひとりで何でも出来ると思っていた

けれど父をアパートへ引き取ってから
実家は廃墟同然になり家を建て替えるお金も無い
彼はせめて土地を荒らしてはならないと
周辺の草を刈りジューンベリー、ナツメ、ユキヤナギ、
いつかここをフラワーロードにするんだと
休みの度に苗木を一本一本植えていった

彼がとても疲れていることを知っていた
車で2時間半もかかる実家に行って欲しくなかった
けれど、「俺にはもう、時間が無いんだ」と、
口癖のように言う彼を止めることは出来なかった
娘とあなたと3人でお花見をしたその1週間後に
あなたは実家の山の高い杉の木から落ちた

なぜ、あの日に限って電話しなかったのだろう?
あの日私は娘と夕方まで鍵盤ハーモニカで
無邪気に遊んでいたんだ
お風呂を沸かそうね、
そうしたらパパがいつものように帰って来るよ、

そのとき私の携帯が鳴った、パパからの着信
けれど、それは違う男の人の声だった
後ろにはざわめく人の声、
「いますぐ来てください!ご主人が大変なんです」

娘は私が何も言わないのに、もう泣き出していた
「最初に言っておきます、目のことはあきらめてください、もう光も感じません」
うそだ、
天井がグルグル回った

娘を抱きしめて泣いた
何年も会っていない親戚の人が病院まで送ってくれると言った
ATMはもう閉まっていてお金は下ろせなかった
着替えは3日分、いつ帰れるかわからないけれど
「当分の間、休ませてください」、パート先の店長に頭を下げた

車に乗ってだいぶ経ってから気づいた
サンダル履きでカバンの中には充電器だけ
携帯はテーブルの上に置いたままだった
空に星が出ているのかどうかは、わからない

文学極道

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