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作品 - 20090810_020_3702p

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太陽の沈んで行く公園で、彼女は話続けている

  ぱぱぱ・ららら

 夕焼け空。夕日は高層ビルで隠れている(いた)。僕らは公園のベンチに座っている(いた)。真っ黒なカラス。ホームレスの象徴たる鳩。遠くから聞こえてくる(きた)サックスの音。彼女は話を始める(めた)。
 公園のベンチに座っていると、なんだかユスターシュの白黒映画に出演しているような気分になる(なった)。彼は神経衰弱を演じていた。そして本当に自殺してしまった。ブローティガンも死んだ。カートも死んだ。サックスの音色につられて、ホームレスの食べていたピーナッツが踊りだす(した)。ワルツを、もしくはタンゴを。「白いワンピースと黒い長髪の結婚」、と踊り疲れたピーナッツは言った。「なんだい、それは?」、とタカーロフは聞いた。『ホームレスに死は訪れない。ホームレスに生はないのだから』、と言ったタカーロフ。『芸術と宗教は似ている。どちらも絶望の子供たちだから』、と言ったタカーロフ。「二人の子供は茶色い革靴さ」、と答えるピーナッツ。「本当にそうか? 茶色じゃなくて黄色じゃないのか?」、とタカーロフ。「黄色は死んだ。茶色に殺されたんだよ」、とピーナッツ。「だが……」、とタカーロフが反論しようとしたところで、ピーナッツはホームレスの口の中に入れられ、黄色い入れ歯で噛まれていく(いった)。
 サックスは鳴り続け、太陽はまだ沈み続けている(いた)。タカーロフは家に帰り、彼女はまだ話を続けている(いた)。僕はピーナッツみたいに食べられるのを待っていたが、大きすぎたせいか、まだベンチに座っている(いた)。
 六月に死んだ女の子が、七月に死ぬことなない(なかった)。僕は本当は六月に死んだ女の子について、書きたいのだけれど、結局僕には書けないのだろう(書けなかった)。
 サンフランシスコの片隅で、動物園から脱走したキリンとペンギンが殴りあいをしている。中国女とフランス女が観客だ。中国女は娼婦で、小さな部屋に住んでいる。エアコンはない。一回6980円で抱かれている。フランス女は表参道の道路に設置された喫煙所でタバコを吸っている。背は高く、細い体に洒落た服。でもフランス女はフランス女ではなく、ベラルーシ女だ。チェルノブイリで父を亡くした女の子。祈りはどこにも届かない。
 太陽は沈み、空には月が出てくる(きた)。彼女はまだ話を続けている(いた)。僕はその隣で話を聞いている(いた)。退屈な話だ。たいした内容ではない。ホームレスは芝生の上で、缶ビールを飲んでいる(いた)。サックスは鳴り止み、月は僕らの知らない形へと変わっていく(いった)。それでもまだ彼女は話続けている(いた)。僕もずっと隣にいる(いたかった)。

文学極道

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