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作品 - 20090612_959_3586p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


隣人の空似

  りす

胸のうちに 捕虜が一人
背中を丸めている
蜂蜜色の肌
舐め甲斐のあるくびれ
解像度の高い汗で濡れた
僕たちの黄色い道具

瓶詰めの戦争が
窓際に並んでいる
鉢植えの華奢なハーブの隣で
戦争は死んでいる
透明な保存液のなかに
午後の最後の光が溶けて
僕たちの遺伝子が燃えている

散々殴られたあと
赤く腫れ染まった皮膚を
まだ黄色いと 恥じている
美しい捕虜の背中に
一枚の地図が浮かぶ
殴れば殴るほど
鮮やかに発色する国境線に
僕たちは嫉妬し
狂った眼を借りてきて

捕虜を打つ、
捕虜を打つ、
捕虜を打つ、

低いベッドから
這いおりたり
這いのぼったり
逃げ惑う捕虜の緩慢で規則正しい動きだけが
戦闘がないこの胸に時間の観念を呼び込んで
捕虜が生まれながら捕虜であり囚われであり
逃げる場所も記憶も痛みもないことに安堵し
空腹が訪れる
幸福な日々を
僕たちは喜ぶ
地図はいらない
空想と現実の
合い挽きは食べられない

捕虜には労働をさせよ!
僕たちの延命のために

等身大の穴を 千個掘らせよ!
千回死んで 千回生き返るために

そして
千回目のゾンビを
僕と名づけよう

僕の目の前には
掘り出した豊富な土がある
これで僕の土像を作ろう!
千体の夥しい 僕を作ろう!
僕の王国の建設
僕らしい軍備を整え
僕らしい戦争をする
僕の名を冠したミサイルが
国境線を越えていく


呑み込めなかった肉を
皿の中央に戻す日
肉はゆっくりと立ち上がり
皿の平野を歩き始める
ハーブの茂みをよけて
肉汁の沼を迂回する
地図を片手に
ナイフの橋を慎重に渡ると
肉は
皿の果てまで
辿りついてしまった

どこかで見たような顔だ、と
フォークが肉を突き刺す

文学極道

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