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作品 - 20090519_575_3532p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


オレンジ

  ゆえづ


セピアに染まる線路沿いの廃ビルが
ゆらゆらと踊っていた
陽炎立つ夏の暮れ
夕空のほころびからひり出された果実は
情熱の膿を孕んだまま
でっかい車輪に牽き裂かれる
あれがありふれた青春の末路です
あれが母さん私であります
似つかわしいと笑うてください
私達のほとんど総ては悲しみで出来ていた
またその延長線上に見つけるほとんど総てが幻で
かさぶた、じんじん滲み出す血漿の
橙色したうろこ雲は
空一面にばらまいた夕陽の薄片

月を眺めていました貴方の中
でっぷり肥え太った月
架線にぶらんと垂れ下がった
高架上のあの激しく脈打つオレンジを
覗いた天体望遠鏡の中の怪物
あれは貴方に似た
密に張りめぐらされた血管の
律動するさまが不気味に美しく
貴方に似た、

 私は待っていた
 あらかじめ私のために揃えられた世界の
 はっきりとよろめくそのときを
 同時に忘れて泣いているのに
 なおも世界の喧しい揺らぎを歌いながら

飛び乗る列車に月の胎動を聞いたんだ
群青に抱かれている私の肌のわななきと
ぽっかり浮かんだ夜空の車輪あれが
まさに今日の私達であったことも知らず
運ばれるままに敷かれたレールを辿ってゆけば
はりつけにされたオレンジが潰れた私達を踏んづけ
ぎしぎしときしり音を立てて走っていた

朝焼けに染まる列車から
目まぐるしい万華鏡を眺めている
錆びついた嗚咽は
のびやかな波紋をつくる川面で
まばゆい黄金の子宮を描く
予感に揺らいだ光彩と
膿んだ球根の匂いが満ち満ちた
このあたたかなオレンジエード
私達またでっかい炎の車輪となって転がり帰ってゆきます
そうしてすべては回っていましたか母さん

文学極道

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