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作品 - 20090509_397_3510p

  • [佳]  巨人 - 丸山雅史  (2009-05)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


巨人

  丸山雅史

 GW中 実家からの帰り道 車内に漂う埃を見て子供は
 「雲みたい。車の中が空の中みたい」
 と言った
 なるほど と僕は相槌を打った 子供の想像力はなんて素晴らしいんだと思った
 埃は眩い日差しを浴びて更にありありとその姿を現した


 手掴みでその雲達を握り潰し 掻き乱す子供
 その様子を見て僕はほっと安堵した
 この幸福な時間がもっと続けばいいなと思った
 つまり日差しがずっと車内に射し込んでいて欲しい ということだ
 子供がこんなに何かに夢中になって物事に熱中している姿を最近見ていなかった
 別の視点から言うと自分はめくりめくる日々に気を取られ過ぎていて
 子供のことをよくよく考えていなかったということになる
 罪悪を感じながら 無心で普段気付かなかった埃の存在に窮屈さを感じていた
 しかし子供と同じように埃の中に身を浸そうと意識し始めると次第に日差しの暖かさと
 親密さを感じ自分達がエベレスト山よりも大きな巨人になったような気分になった


 高速を下りて信号に捕まると
 子供と一緒に埃を掴み始めた
 それはシャボン玉のように
 鷲掴みすると姿を消していった
 子供は
 「どうして雲が無くなっちゃったの?」
 と不思議そうな顔をして僕に質問すると
 「ちゃんと手の中にあるよ」
 と優しく答えた
 すると子供は
 「雨の味がするかなぁ?」
 と舌でぺろりと手の平を舐めて しょっぱい! と顔を歪ませた
 信号が青に変わったと同時に僕はハハハ!! と笑いアクセルを踏んだ
 暫く走ると分厚い雲が見えてきて雨がぽつりぽつりと降ってきて
 フロントガラスに付着し始めた


 日差しが消え 車中に埃の姿が見えなくなると子供は突然泣き始めた
 渋滞にも捕まり 子供は落ち着きを失い サイドシートで暴れ出した
 子供を宥める為に 僕は渋滞から抜け出し 裏道を通ることにした
 シャワーのように降る天気雨で一変した風景の先に 光が一筋射しているのが見えた
 スピードを上げて雲を抜けると 再び車の中に埃が姿を現した
 「あっ!! また雲が出てきた!!」
 と子供は歓喜の声を上げ 一心不乱に埃を掴み始めた
 僕は自然と笑みが零れ 自宅に向かって進み 眠気を覚ます為にミントガムを噛んだ

文学極道

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