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作品 - 20090505_304_3501p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


地蜘蛛

  りす

子供のように
子供の真似をして
尖らせた唇の頂に
春をのせて歩く
咥え煙草の灰が
落ちるのをためらうほど
見晴らしがいい
此処では

縦書きの縊死 
横書きの寝返り 
今日も何か書こうとする手の日陰に
一匹の地蜘蛛が生まれる

 これが地蜘蛛だよ。
 字蜘蛛?
 そう、地蜘蛛。
 地中に細長い袋を編んで
 獲物を待ってるんだ。
 待ち伏せ?
 そう、待ち伏せ。

春は一瞬の集合だから
絶えず何かが落ち続ける
湿った若葉を路肩に探り 
鼻を潤す野良犬
その澄んだ眼が捉える 
開かずの踏切でじっと待つ 
人々の骨格
その灰白の林へと
字蜘蛛は滑り込んでいく

背骨をそっと這いのぼる 素早く  
あるかないかの溝に脚をかけ 
そろそろと肋を巡る
頚椎の中庭で蜘蛛は考える
何が姿勢を支えて
人は倒れないで
何かを待てるのだろう
胸骨に巣を仕掛け
字蜘蛛は待ち伏せる
遠くで聞こえる警笛よりも
骨の軋みは騒々しい

新緑が陽に透けるように
人も明るく透ける
野良犬は目を細めるが
嗅ぎつけたものにしか
興味がない 
鼻が承認したものだけを
舐め尽くす
きょう見えたものは
あしたには見えない

野良とは
そのへんにいる
という意味ではない

書くことと書かないことの
わずかな隙間を押し拡げ
光と見まがう闇の中へ
縄を一本垂らす
だらりと 
わざと
だらり、と
鳴るような手つきで

見晴らしという言葉を捨てる
身軽になるために
暗い裂け目へ降りていく
ここは字蜘蛛の故郷

この縄は
字蜘蛛が吐き出して撚った
意図だろうか

 罠にはまるとどうなるの?
 ムシャムシャ。
 食べられちゃう?
 そう、ごちそうさま。

野良犬とは
気がつくといない
イヌのことである

文学極道

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