#目次

最新情報


選出作品

作品 - 20090504_288_3497p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


飛田新地

  ゆえづ

つつましく正座した少女らは
灯籠の薄明かりの下
客引きのおばさんが手招く先々で
剥製のようにしゃんとすましている
浮世絵さながらの色街
一枚の座布団だけが優しさで

僕は今月一枚きりの万札を
ぎゅっとジーンズのポケットで握り締め
時代に取り残されたこの一画へと足を踏み入れた
すれ違う宿はどれも泥垢に塗れ
ゆらめく街をまっすぐに見据えている
空ろな眼差しを投げ
路上で膝を抱えるホームレスそっくりに

ここは極彩色のどぶ川だ
ゆらゆらと水底を踊るコースティクス
逆さまに仰ぎ見ている少女は
糸の切れた風船だった
焦点の定まらない眼が天井を泳ぎ
遠い空を漂ったまま帰ってこない
だらしなく濡れそぼる膣口は
ぱくぱくと力なく開閉を繰り返し
透ける身体は屏風や僕にぶつかりながらも
水流の勢いに乗って浮き沈みする
今にも死にそうな魚のように

誰が少女の傷みを慮るだろう
酒の酔いもさめる頃
せめてもの心付けと砂利銭をかき集め
無様な善人を装う僕こそが救えない


浮かび上がる赤は鯉の死骸だ

ぐあぐあ
インディゴの夜空いっぱいに翼をひろげた白鷺が
冷たい大人になるなと鳴いている

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.