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作品 - 20090502_261_3496p

  • [佳]  永遠 - 丸山雅史  (2009-05)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


永遠

  丸山雅史

 1人でプラネタリウムを観に行った帰り
 僕の祖父が務めていた路線バス会社の事故により
 君が永遠の眠りについた北海道旭川市
 毎年君の命日になると市のシンボルである旭橋の下を流れる
 大雪山系石狩岳の西斜面に源を発する石狩川に灯籠を流す
 瞳を瞬かせながら眺める嵐山からの故郷の美しい風景からはいつの日も
 空と涙に沈んだ街並みに美しい虹が架かっているのを見つけることができる
 
 「宇宙とは私達地球内生命体の故郷である」
 と豪語した変わった宇宙物理学者がいたけれど
 今 僕の頭上に広がる澱んだ東京の宇宙(そら)と
 北国で2番目の人口の都市で見た澄んだそれは実は全く同じで
 記憶の中の君の麗しい瞳の無数の星が絶え間なく輝く 黒き瞳孔をまじまじと思い出す
 君は驚き続けながら
 広大な宇宙の外側の白い世界をじりじりと浸食する
 其れは僕と見た旭川市青少年科学館の
 プラネタリウムが君にとって特別である
 何よりの証拠なのだ

 ≪宇宙の膨張=瞳孔の拡張≫
 又は
 ≪宇宙の収縮=瞳孔の萎縮≫
 又は
 ≪宇宙の膨張=瞳孔の拡張≫
 又は
 ≪宇宙の収縮=瞳孔の萎縮≫
 ・
 ・
 ・
 又は
 有限の反復
 又は
 神の束の間の心臓

 いつの間にか天球のスクリーンは
 満天の星空に変わっていた
 僕達は草むらに寝転び
 君と2人で手を繋ぎながらそれを眺める
 満面の笑みで見つめ合った君のスクリーンには僕が映っていて 
 君と此処で1つになれたら と
 そんな空想を思い描いているうちに 短過ぎた夜が明けていく
 濃い朝霧の中 僕と君は常盤公園前のバス停の前に立ち
 やがてやって来た番号の表記されていない始発の路線バスが
 死者の君を乗せて何処へ走り去っていく
 僕は生憎 それに乗り込むことはまだ許されていない

 桜の舞う季節には君を自転車の後ろに乗せて石狩川の堤防の坂道を下り
 旭橋の近くの花火大会と 桜桃のように可愛らしい2人の線香花火が滴り落ちる夏
 京都市左京区の「哲学の道」ではないが
 路線バスを乗り継いでやって来た
 落ち葉の絨毯を敷き詰めた 果てしのない神楽見本林の先の
 まだ幼かった自分達の未来が見えなかった秋
 そして数々の君との思い出が白く凝結した溜め息へと変わり
 それら全てを地面と積雪の隙間に眠らせる季節
 そんな故郷 北海道旭川市を僕は愛おしく感じている
 
 時間の観念と深い関係を根差す 季節 が繰り返されるように
 生き物達は宇宙のように同じ生を何度も繰り返しながら
 その度に生きた証を不滅の魂に刻んでいく
 そうして次の生涯を前回とは異なり楽に生きていく
 故郷とは鮭が死ぬ前に生まれた川へきまって還って来るように
 僕達を生かし続ける為に本能的に溯上させ 心を癒す為に在ると
 僕は君の死から学んだ
 
 僕のスクリーンには今日も君への詩が満天の星空を映し出している

文学極道

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