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作品 - 20090418_063_3468p

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コミュニ鶏頭

  菊西夕座

客:「もしもし――丸山さんはいらっしゃいますか」
店員:「ございますが」
客:「おつなぎして頂けますか」
店員:「あいにく、本日の丸山はすべて使い捨てとなってございます」
客:「かまいません」
店員:「少々、お待ちください」
客:「待ってください」
店員:「はい?」
客:「おかげんが悪いのでしょうか」
店員:「五分咲き、といったところでございましょうか」
客:「では、やはり待ってください」
店員:「このままお待ちになりますか?」
客:「すみませんが、七分咲きまで一緒に待って頂けませんでしょうか」
店員:「あいにく、わたしの賞味期限は午前10時までとなっております」
客:「味が落ちてもかまいません」
店員:「ですが、鮮度が保てません」
客:「鮮度が落ちてもけっこうです」
店員:「声もぬるくなります」
客:「声がぬるくなってもけっこうです」
店員:「それに、音質も劣化します」
客:「音質が劣化してもかまいません」
店員:「そうはおっしゃいますが、声がとぎれとぎれになります」
客:「どうにか聞き分けますから、お願いします」
店員:「しかし、丸山が聞き耳をたてます」
客:「聞かれてもかまいません」
店員:「丸山になんと言い訳すればよろしいでしょうか」
客:「黙ってろと、そうおっしゃってください」
店員:「丸山は黙って聞き耳をたてます」
客:「こっちを見るなと、そうおっしゃればよろしいかと」
店員:「丸山はこっちを見ておりません」
客:「こっちを見ろと、そうおっしゃってください」
店員:「あいにく、丸山は使い捨てになっておりますので」
客:「かまわないかと」
店員:「いちどお使いになると、丸山におつなぎすることができなくなります」
客:「丸山さんはほかにもいらっしゃるでしょう」
店員:「ございますが、本日はすべて五分咲きです」
客:「まいったな」
店員:「失礼ですが、どういったご用件でしょうか?」
客:「山を丸ごと購入したいと思いまして」
店員:「そうですか、ありがとうございます」
客:「しかし、五分咲きだとすぐに高く転売できない」
店員:「ですが、丸山の上には本日、会長がおります」
客:「怪鳥がお見えですか」
店員:「左様でございます」
客:「オプションということでしょうか」
店員:「含み益かと思われます」
客:「かなりの珍種でしょうね」
店員:「希少価値がございます」
客:「では、電話を怪鳥にかわっていただけますでしょうか」
店員:「わたしが怪鳥ですが」
客:「これは失礼しました」
店員:「飛んでもないです」
客:「ただのパートタイマーかと思いました」
店員:「バードタイマーです」
客:「なにせ先ほど賞味期限が10時までとおっしゃっていたものですから」
店員:「ええ、つい先日、焼き鳥にされまして」
客:「ハッハッハッ」
店員:「羽はございません」
客:「なんとおっしゃいました」
店員:「ハッハッハッとおっしゃられても、羽は一枚もないのです」
客:「ハッハッハッ」
店員:「羽が3枚、入り用ですか?」
客:「またご冗談を」
店員:「本当です。すべて焼かれました」
客:「ハッハッハッ」
店員:「歯はもとからございません」
客:「嘴かね?」
店員:「串刺しです」
客:「ダッハッハッ」
店員:「ダハではなく拿捕されたのです」
客:「ダッハッハッ」
店員:「もしもし、音質が悪いですか? ダハではなく拿捕です」
客:「拿捕されて、丸焼きになったのですか」
店員:「そうです。船をこいでいる隙にやられました」
客:「ダッハッハッ」
店員:「それで、おいくらでご購入なさいますか?」
客:「丸焼きですか」
店員:「丸山です」
客:「もう購入はやめました」
店員:「丸焼きもセットになりますが」
客:「それが気味悪いので、やめることにしたのです」
店員:「ですが先ほど、鮮度が落ちてもかまわないとおっしゃっておりましたが」
客:「購入するとなれば、話は別です」
店員:「左様ですか」
客:「さようならです」
店員:「賞味期限まで、あと5分ありますが」
客:「もう切ります」
店員:「もう切られました」
客:「なんですと?」
店員:「丸焼きにされる前に、手も足も切られました」
客:「手はもとからないでしょう」
店員:「買い手はあるかと思いまして」
客:「ハッハッハッ」
店員:「羽はございません」
客:「聞き手くらいはあるでしょう」
店員:「そうでしょうか?」
客:「そうですとも」
店員:「手はやはりあるのですね」
客:「解釈の翼をひろげれば、いくらでも」
店員:「まだ羽もあるのですね」
客:「見方によっては、あるでしょう」
店員:「味方になって頂けますか?」
客:「ええ、もちろん」
店員:「わたしは焼き鳥ですよ」
客:「聞き鳥役になりますよ」
店員:「ありがとうございます」
客:「お安いご用です」
店員:「では、もう少しだけ切らずに待って頂けますか?」
客:「5分だけなら」
店員:「これで安らかに昇天できそうです」
客:「また飛べるのですな」
店員:「ハッハッハッ」
客:「その調子、その鳥子」
店員:「ハッハッハッ」
客:「ハッハッハッ」
店員:「ハッゥゥ・・・」
客:「どうしました?」
店員:「・・・・・・」
客:「もしもし」
店員「・・・・・・」
客:「怪鳥?」
丸山:「会長は出鳥しました」
客:「ハッハッハッ」

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