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作品 - 20090403_834_3437p

  • [優]   - ひろかわ文緒  (2009-04)  ~

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  ひろかわ文緒

夜空を映す水溜まりを
やさしいバネで飛び越えた
草はらを分けていく風に
振り向く、先の
屋根の上には風見鶏が
カラカラと、鳴いて

泳ぎながら眠る魚を
ほほえみあって食べたい
かなしくないうちに
血液にしてしまえるように

軽トラックが砂埃をあげて
舗装されていない道を
走っていった
荷台の幌は
かすかに持ちあがり
はたはたとなびく
幌の下に隠された骨の行方は
えいえんを含んだ海でさえ
知ることはないんだろう
砂粒が口の端をかすり
舞い上がっていく

路肩に沿ったガードレールの
錆ついた部分を
そっと、爪で弾いて
金属の振動を確かめた
腕に残る痣を隠す
袖口の温度に
触れたことはありますか

誘蛾灯から
またひとひら、翅が燃え尽きる
予感がして、風に
密やかに告げる

電信柱のもとに
白い花を手向ける老人
その掌はやさしいばかりでは
なかっただろう
だけれど
些細な仕草も
誰かが許していくから
月はふるえて
ただ、美しいに違いなかった

灰色の鳥が絡み合って、落下する
途端、翻って、

岬には
子供たちが集まって
手をつないで
まぼろしのように建つ灯台を
囲んでいる
揺るぎない明かりの先にあるのは
お母さん、
きっとあなたも
まだ見たことのない、
あなたです

文学極道

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