#目次

最新情報


選出作品

作品 - 20090313_542_3387p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


せつな

  右肩

 ややあって
 春の雨が
 畑地を走り
 部屋のガラスに
 点点と
 滴が
 あたりはじめ
 茶箪笥の上の
 信楽の
 一輪挿から
 椿
 の花が
 匂い、
 その
 落ちる
 音を聞いた。
 目を上げると
 花瓶の脇で
 まだわずか
 揺動を
 残す花
 の意識
 の中で
 風に波立つ
 大きな水のように
 震える
 山河
 目の奧へ
 ようやく
 ぼやけた乳房
 と乳房
 移りゆく
 赤い言葉も
 なくなにもなく
 軒先に
 蝶つがう
 昼の
 濡れた
 ふるさとよ

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.