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作品 - 20090306_462_3376p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


アノレキシア

  ゆえづ

浜辺には灰色の流木が転がっている
ひょろりといびつな形をした
いやそれは私だった
私はじっと横たわったまま
誰かが抱き起こしてくれるだろうと
ただ待っていた夢の中

窓の外では野良猫がえずいている
ゴミ袋を突くカラスを見て
その声に目覚めるとまた金縛り
差し込む夕陽が病室を焼く
壁から不意にずり落ちる掛け鏡
ふと気配を感じ横目で確認すると
窓際にひとがたをした流木が立っている
24インチのジーンズを履いたそれには
よく見ると足がなかった
「だって死んでいると温かい」
ベッド下に捨てられたふくらはぎを拾って
手足をかくりかくりと鳴らしながら
流木は冷蔵庫の方へ向かった
針が同じ時刻をなぞるばかりの
電池の切れたアナログ時計のように
かくりかくりと奇妙なリズムを刻み
冷蔵庫のミルク瓶を手に流木はやって来る
そして乱暴にパジャマの胸元を掴み上げると
拒絶する喉へミルクを流し込んだ
そこで私は再び眠りに落ちる

ずきずきと収縮する病室は腫れたようなオレンジ色
テーブルにはホイップまみれのバスタオルが
また床にはごっそり抜け落ちた頭髪と見覚えのない錠剤
それから私のものらしき顔がばらまかれ
時間も何もが剥がれ飛んでゆくのを
やはり私は横たわったまま見ていた
目覚めても鼓動は遠いさざ波を奏でている

面会にやってきた父親は
私に冷ややかな一瞥をくれると
ソファーに万札をひらりと落とし
そそくさと病院を後にした
一枚きりの万札をベッドの中で握りしめ
何もなかったかのように死ねたらいい
できれば私は私に戻りたい
昼は学校でフツーに笑い
夜になれば脂臭い街へ踊りにゆく
ありふれたフツーの女の子に

文学極道

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