大学図書館の出窓で俯く私
太陽の傾きに合わせて
体を捻ってエネルギーを浴びる
しかし太陽が沈むと
どうしていいか分からなくなり
1人貧しい環境で勉強している
貴方を照らす蛍光灯を見つめている
校庭で他の雑草と一緒に
刈り取られそうになった時
眼鏡を掛けた表情の暗い貴方に助けられて
図書館の出窓に
なけなしのお金で買ってくれた
貴方にしては可愛らしい花瓶の中に私を
入れて置いてくれた それが私の初恋の始まり
毎日夜遅くまで図書館で勉強している貴方
お腹を鳴らしては時々
恥ずかしがり屋な私を見て
分厚い六法全書をノートに書き写している
ある日 あの ろくでもない人達が
私の元にやって来て
嘲笑しながら私の体をへし折って
花瓶ごとゴミ箱に捨てられた
激痛が走る体に耐えながら
悲しみに暮れながら
太陽の沈む黄昏の街並みの光をずっと見ていた
やがて蛍光灯が灯り
鬱気味の貴方が窶れた表情でやって来ると
私が出窓にいないことに驚き
図書館中を探し回った
そしてようやく私をゴミ箱の底で見つけると
割れた花瓶ごと持ち上げて
構内を走り回り 1人残らず不慣れな尋問をして
ついにあのろくでもない連中を探し出して
今まで見たことのない憎悪を秘めた表情で
罵倒し始めた
彼らは一瞬間があった後
へらへら笑いながら貴方の周りを囲み始め
貴方の顔面を殴り飛ばした
散々殴られ蹴られた後
鼻から血を流し 体中に痣ができて
罅が入り 眼鏡が割れた貴方は
心配そうに見ている私に
にこやかに笑い返して
花瓶と共に貴方のアパートへ
連れて行ってくれた
セロテープでへし折れた私の体を固定して
直した花瓶に台所で水を入れてくれて
段ボールの机の上に飾ってくれた
言い表せられない感情が茎を締め付けて
私は花瓶の縁をそっと転がって
眼鏡を外して泣き腫らした顔で
机の上に突っ伏して眠っている
美しい貴方の頬にキスをした
意識が戻り
太陽が再び空に出てくる頃になると
私は陽の光を浴びて
温めの水を根から 千切れた道管を通して吸い上げた
誰かに花弁に触れられて振り向かされると
貴方はセロテープで修正した眼鏡を掛けて
その奥の瞳が何故か潤んでいた
どうしたの?
という言葉すら発することのできない私は
ただただ貴方を見つめ
自分が花として生まれたことを
心から後悔した
意地悪な大家さんが最終通告をして出て行った後
具合の悪そうな貴方が
優しく私の花弁を撫でていううちに
あまりの気持ちの良さにすっかり微睡みかけ
忌まわしい記憶や悲しみ 苦しみの蠢く
意識の届かない場所で 私は人間となり
貴方と花畑をどこまでも駆け続ける夢をみた
再び目を覚ますと
貴方は夕暮れの真っ赤な逆光の中
太いロープで首を吊って死んでいた
段ボールの机の上には遺書が置いてあり
其処には自殺した貴方の恋人に対する想いが綴られていた
私はその眩しい光の中で
影となっている貴方を見て
傷口から初めて涙というものを流した
数日間貴方は誰にも発見されず
私の香りと貴方の死臭が
まろやかに混ざり合って
次生まれ変わる時には
貴方の恋人になりたいと強く神様に願った
隣人や大家の通報で警察官がやって来て
蛍光灯を点けた瞬間
意識が朦朧とする中 私は天井を見上げ
其処に天国を見出し
今 まさに
命の炎が静かに燃え尽きようとしていた
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選出作品
作品 - 20090220_310_3353p
- [佳] ヒヤシンス - 丸山雅史 (2009-02)
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ヒヤシンス
丸山雅史