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作品 - 20081028_164_3106p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Trick or Treat?

  黒沢




潮流には兆しがあるのよと
きみがいったか
他人のせいなのか
なみ打ち際で声が聞こえて
とお浅の舟をあらそう
みよ子の呼び名が浚われていく
そうして瞼がよるとなり
丘がうす曇りの冬の朝となり
うち寄せてくる波濤はいきものの首のようで
それらを抱きかかえて
きみはふざけた



いち枚のカードがあり装飾文字の表はうらで裏は間違いで気がかりな紙面のどこかにはさち或いはその反対と記されている。険しくなったきみの鼻梁に新月のどよめきが投射し件のそれはもはやここにない。又ぞろ次のカードへと指をよせるとふたりのうち独りはすでに人でなく褐色の倒れこむ燭台いな光りのきょう声。手元のとりたちはひき離されていく。宙がえる。うき対比される。わたしは安逸のためなおも試みをくり返すけれど背伸びした風が浅ましく窓枠をこえ真水のその先はふきつな揺り籠みたいで壁や床下にシュガー塗れの渦がまよい込む。横から見たきみのゆくりなくも自傷するにの腕。HareでもないKeでもない花のない食卓にざわざわとあのカードが降りかかるのに気付いたのは何時のことだったか或いは。



くち移しに
弓に手をかけて炎を
くぐって

下から
見あげた乳ぶさは雨のよう
草やきん類で麻酔したここ
ねつの母屋は死びとみたいだといわないで欲しい
嘘まねに似ている
そんなことはいわなくて良いから
もう白蝋の傷のりょう線を
惜しまないでほしい
ああ魚たちが
血みちを喪い葉牡丹のかきねをこえて登攀していく
一斉にたたみかける動悸はふと日かげの繰りごとに似て
見なくていい目を逸らしてと
いま上へとかえされる逆に
よこ揺れを圧しあてていく私はよいんに
過ぎないけれど液を渡しあいシュガーをうばいあう
いがいな表の
その狭間
懐かしいくるおしさに名前を与え
消しさっていい



あれはすい星かしら。いや熱気球だよ。

沖へ周えん部へと架線のあとをふみ締めては止めうず高く派生する潮の気配だけをたよりに根雪が汚らしいうす曇りの下を歩いた。みよ子これで何度めだろうか。わたしはまがった口調でいい直すけれど後ろ手にふたりを損ない棚引くばかりの偏西風に眉をひそめている。重い爆音。永ながと通りに投げだされたしき石からは力ない排水がわき複写されたそらの内奥で燃えそうなだ円の輝きが又ひと回り傾斜をつよめた。どこかで遮断機が腐りかけるのをうごく頭の片すみで感じ現れては姿をかくす顔のないのら猫。みよ子これで何度めだろうか。よきせぬ港湾のクレーンに行く方をきり取られた時きみは泣きだすのかと思った。ぺらぺら濁った波頭がかなた他人ごとのように見えてくる。みるみるうちに喫水線が歯がたになっており畳まれ又もきびしく定位していく。誤報かしら。そうした周期がゆくりなく変奏されるたびふたりの間近を泥だらけの輸送コンテナが掠めふと我にかえるとさらに水位が埋ぞう量が呆れるほどの執拗さでせり上がるのを確かめていた。

Trick or Treat? よつ角で誰かがふざけ合っていてこちらを見返してくる胡乱な眼つきが秘めごとみたいだと思って声をあげた。

文学極道

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