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作品 - 20081013_979_3082p

  • [優]  gloom - 5or6  (2008-10)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


gloom

  5or6

新宿の交差点で女をスカウトして
その女の彼氏に殴られた
その僅か数秒の焦燥
走馬灯の一歩手前

格好悪くてもバカにされても生きていけばいい

そんな声が聞こえた
誰に向けて
自分にか
自分にだ
その声と同時に左頬に硬いシルバーの指輪付きのコブシがめり込む
奥歯が内側の頬に突き刺さる
でも大切なものを無くしたらどうやって生きればいい
さっきの声に心で反論した刹那
立っていた自分が地面から浮いて放り投げられる
柔道家か
もっと高校の時に柔道の授業出ていれば良かったと後悔する
意識は過去に飛ぶ
家を出ていく母
幼い頭で説得しきれず泣き叫ぶ子供
背中を向けたままの父
脳みそが焼き切れるくらいに引き止めようとしたあの時の思い

今は

無い

去っていくカップルを倒れこみながら見つめる
もう一度
ゆっくりと倒れて
早くなる
うぅぅぅん、

前のめりで
目の前のアスファルトに倒れこむ
鼻に火薬詰められ爆ぜる
火花が耳穴から
こめかみから
溢れだし
その光は額の中心を貫通する

一人

一人で起き上がる前に道路の石を眺めた
それは二つの石が支えあっていて
なんだか人の形をしていた
後ろで立てよと背中を押してるみたいに見えた
前の石は偉そうだな
でも
この感情が溢れ出したら
また昔のように
みんなが寝静まる時に起きている羽目になる
都会に住めば住むほど
いつ眠ればいいのか分からなくなる
絶えず街には人がいるのに
金払うわけでもないし
ましてや金貰えるわけじゃないから
こうして無様にしていても
周りの靴は乾いた音で
かつかつかつかつ
行っちまう
暫くして鼓動の音が明確に左頬に響き
熱く痛い現実がやって来る
意識を体に戻し
立ち上がって赤い唾を吐く
その時に
もう一度あの声が聞こえた

格好悪くてもバカにされても生きていけばいい

そうだ

あの声は父だ

後ろ向きで背中の曲がった父の声だ

母に見捨てられた父が上京時に告げた言葉だ

格好悪くてもバカにされても生きていけばいい

確かに
まだ
俺はここにいる

見上げると
高いビルから
不平等な形の人が見える
それはすぐにネオンの光に反射して消えた
クラクションが鳴る
もう信号は変わっている
わかってる
わかってるよ
歩くよ
だから急かそうとクラクションを押すな押すな解ったから押すなちくしょう押すなクソ野郎うるせえ押すな

押すなクソ野郎っ!


とうりゃんせが鳴る
広い横断歩道を
前を向きながらみんな歩いている
クラクション鳴らした車に怒鳴り
乗っていたヤクザにまた殴られて
とうりゃんせが鳴る信号の柱の横で
倒れたまま見ていた

今日の女はみんな同じ顔をしてる

収穫無いまま
そのまま薬屋に行き
個室ビデオに入って
男臭いソファーに座り
電源オフのテレビの画面で腫れた顔の痣を見て
シップを貼ってそのまま寝た


スカウトは顔が命だ

文学極道

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