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作品 - 20081002_767_3059p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ビオトープ

  ゆえづ

庭は母があらたに植えた花々で賑やかだったけれど
ガーゴイルと仲良く膝を抱える花壇脇
日がな枯れたヒナゲシを眺めて過ごした僕は
言葉に忘れられた詩人のよう
横たわる風景に多くを望まなくなって
ただじっとひそかな企みを抱いている
くすぐったさが底から込み上げてくるような腹の中で今日も
君と僕が生み出した大きな悲しみを育てている

ひとりきりの夜は眠った
破かれる事もない白紙を抱いて
休まる時を知らない秒針だけがチクタクと笑っていた
僕のありったけを押し込んだ寝床で
こころというこころを殺しながら

こっそり君と待ち合わせた放生池へと
パン屑を片手に迎う真夜中には
目を細めた月が僕を見逃した
いつの日もたくさんの鯉が僕らの影を待っていた
君の黒髪に光るヘアピンが夜の森に走り消える星のようだとか
透けて見える静脈が街灯に浮かび上がる水中の河骨そっくりだとか
とりとめのないお喋りに夢中になっている僕を
虚ろな返事を水鏡に濁しながら
プリンのシール蓋を剥がす時の軽やかな手つきで君は
ヒナゲシの実をひらりと裂きちいさく笑った

そうして時間がどこまでも透けてゆくのを待った
二人して石像のように青ざめて
やがて息を殺した朝靄の中
鯉が水面に散らばる言葉を縫ってゆく
千切れる顔は掬うもたやすく舞い落ちて
音もなく沈みゆくパン屑のひらひらと招くその息づきを
死んでいるように見つめ合う池端
野犬の一吠えに水面が凍る

こぽりと洩らした君のあくびが
水面に伸びやかな円を描いてゆくのをただ
薄い胸びれの隙で待っていたんだ
眠たいフロストガラスに響き渡る声
胸びれに見え隠れして
ためらいがちに揺れる光彩の中
夢見のままに華やいで君
静寂の青さにくすぐられていた夏休み

(いつしか僕の庭は見慣れぬ花でいっぱいだった)

ちょうど吹き抜けた風に乗って
少年の胸ポケットへするりと忍び込んできた君を
僕はまた大層大事に育て始める

文学極道

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