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作品 - 20080901_214_2993p

  • [佳]  祈り - Tora  (2008-09)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


祈り

  Tora

私のこの手首は 燃えるゴミなのか燃えないゴミなのか
資源ゴミではないという事
そして もうすでに異臭を放っているという事だけが
隣人にまで知れ渡る
今日とはそういう日なのです





電信柱の影 黒く煤けたお地蔵さんに手を合わせて
「明日はUFO見れますように」と祈りを捧げたり
坂を転がり来るオレンジを拾い上げ
「ずっと前から転がり来ると思っていたよ」と
彼女を弄ぶような事が少し恥ずかしく 面倒にもなった頃には
電信柱の影からお地蔵さんは姿を消していた

皆が皆 UFOを見てしまった という事なのだろう

祈る事が無くなったのだから お前にもう用はない

腐敗が進む手首を切り落とし
私は少しの安堵感を得た


異臭絡みつく電信柱を曲がり
狂信者集う安アパートの
不釣合いなエレベータのドアが開く
中には好々爺
「お前は命の重さを何だと考える!」と怒鳴り散らしている
私はさらりと「重力なら感じることができますけどね」と
5Fのボタンを押した
好々爺は屋上を目指し 私は部屋で 飯を食う
コンビニの弁当をさもさもと食べる
TVでは「安心安全」のオンパレードで少し胸が焼ける

タバコに火を点けようとしたが そうだ私には手首がない
「もう一度くっつくかな」と部屋を出てエレベーターに乗り込む
安アパートの玄関先には潰れた好々爺
「どうでしたか?重かったですか?」と尋ねると
「いやいや。リンゴと同じ重さだったよ」と
破れた声帯を押さえながら 好々爺は嘯(うそぶ)いた

電信柱の影 そのゴミ置き場にたどり着きはしたが
そこには見ず知らずの少女が 黒く煤けた私の手首に祈りを捧げている
私の両目は 私自身の所有権を決して認めぬ涙で溢れ
「禁煙するなら今しかないか」と 私もまた 嘯いてみる

安アパートに引き返し
私は好々爺の手首を切り取り
屋上へと駆け上がり
「UFOなんかいねぇよ!!」と叫びながら手首を投げ飛ばした

それを少女が追いかけてはいたが
「どうか未確認のままで」と
私は久しぶりに
祈りを捧げた



                              Tora

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