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作品 - 20080816_950_2966p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


飛行機とポテトチップ

  はるらん



床にこぼれたポテトチップを
拾おうともしないで
すぐにいつも新しいのを
買って来る、それが
僕の暮らしのすべてだった

部屋がゴミで一杯になると
僕は足の裏の汚れを
少しだけ気にしながら
ドアを閉め すぐに新しい
マンションの鍵を手に入れた

そんな風に女のコたちと
サヨナラするのは いとも
たやすいことだった
僕がサヨナラと口に
したわけでもないのに
女のコたちはいつも

「あなたは嘘がつけない人ね」
と、笑いながら、しかし、
そのスカートの下に隠してあるものを
二度と見せてはくれなかった

持てるカードはすべて使い
新しいマンションに引っ越しても
ポテトチップはやっぱり床にこぼれ
なぜだろう、僕は初めて
背を丸め、それを拾い
その瞬間、涙が零れ落ちた

部屋に散らかっている沢山のゴミ
いつか缶ジュースの空き缶の
博物館を作りたいと本気で
倉庫を借りようか、なんて思い

ジーンズやTシャツを買ったときの紙袋
スニーカーの空き箱や壊れたアンプ、
ライブのチケットや、切れたギターの弦
そんなものすべてが僕の足跡だったなんて

少しだけ泣いてから
部屋のゴミを燃えるものと
燃えないものとに分けて
Yesだけではダメですか?
Noだけではダメですか?
答えをいつも先送りにしていた僕だった

汚れた服やタオルを洗濯機に放り込んで
グルグル回る泡を見つめながら僕は
先週の母からのメールを思い出す
「お盆は、いつ帰るの?」と

僕はその返事を、たったいまメールした
「飛行機が取れたら帰ります」と、
こぼれたポテトチップを口に入れながら

文学極道

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