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作品 - 20080712_326_2895p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


唯の夢 その四

  菊西夕座

学窓という母体にとらわれていたころ
唯の生きかたはまるい卵のように
友好的でおとなしく
上品な自制のかたまりだった

まわりの男女は見境もなく
とがったペンをもちよって
くろや黄ばんだ先端で
唯のまるみをつっついた

教師はざらつく手のひらに
唯をすっぽり掌握し
むやみに手中でころがして
油性の指紋をおしつけた

初恋相手の先輩が
ウィンクしていた右目には
トイレにしかけた盗撮の
画像がレンズにかくれてた

演奏クラブのライバルは
高価な銀のフルートで
調和をたもつ唯の音を
ななめ上から威嚇した

扉をあければ階段が
廊下の隅からなだれこみ
一段いちだんランダムに
宙をさまよいせめてくる

眠りにおちるそのたびに
唯のこころの殻が割れ
おさえつづけた感情が
でゅろでゅろでゅろでゅろ歌いだす

もだえる芯から棘がはえ
ウニそっくりに変形し
怒りにくずれた卵巣が
でゅろでゅろでゅろでゅろ歌いだす

幻想という世界にとらわれているとき
唯の外界はかたい卵のように
友好的でおそろしく
嘘つきな自衛のかたまりだった

文学極道

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