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作品 - 20080707_168_2878p

  • [優]  新車 - りす  (2008-07)

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新車

  りす

君が死にに行くというので
僕は道々に立って案内をした
長いつきあいだというのに
君は他人行儀に礼を言って
重たい頭を下げて通りすぎた
君の髪の甘やかな香りを
僕が覚えていようと思った

隣の斉藤さんは新車を買ったので
誰かを乗せたくて仕方がない
なんなら送ってくよ
ナビだってあるし
そう言って君を誘うけれど
車ではちょっと早すぎるので、と
君は丁重にお断りした

街灯に照らされる君の顔は
年々若返って青白くなり
薄暮と黄昏のあいだに溶けて
ときどき見失うようになった
それでも君が迷いそうな時間に
僕は標識のように道々に立ち
君の行くべき方向を
ひとさし指で示した

君が通りそうな道を
僕はどうして知っていたのか
後日、斉藤さんに尋ねられたけれど
それは僕にも分からなかった
僕のひとさし指がピストルに見えたと
後日、君は言っていたけれど
それは斉藤さんには言わなかった
新車の匂いってたまんねーな。
どっか行きたいとこあるかい?
斉藤さんはまた新車を買ったので
誰かを乗せたくて仕方がない

文学極道

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