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作品 - 20080630_046_2862p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


空ばかり見ていた

  はるらん



電車を3つ乗りかえ
坂道をトボトボ歩き
季節の花束を抱えて
会いにきてくれる少女に
僕は何がしてあげられるだろう

君が来る前の日には
いつもモカを200g求め
3本99円のポンジュースを
カゴいっぱい買うことに僕は
何のためらいもなかった

八百屋で奥さんと呼ばれると
君はテレくさそうに笑い
その笑顔はミモザの花が
咲いたように明るかった

ボブ・マーリーの歌なんて
わからないと君は言ったね
僕の好きなものすべてを
好きにはなれないと

それじゃあ君は何が好きで
何になりたいのかと聞けば
自分にもわからないのよと
君はクスッと笑ったね

あの日 最後に君を抱いた日
何かが ちぐはぐだった
君を抱いた瞬間
何かがいつもと違うと感じた

2階の開け放した窓から
見える青空に浮かんだ
白い雲がキレイねと君はいい
どこか遠くを見ているようでもあった

こんなことが前にもあった
初めて君を抱いたとき
君はやはり四角く切り取られた
この青空を眺めてそう呟いたのだ

君の中で果てたあと僕は
本屋に行くからと君を
ひとり部屋に残した
いつものことだから
気にも止めなかった

本屋でカメラ雑誌を見て
今月のコンテストもボツだった
ことに大して落胆もせずに
けれど僕はなぜか急な
胸騒ぎがして部屋に戻ると

君はもういなかった
いつものことじゃないか
けれどそれ以来君が
僕の部屋を訪れることは
二度となかった

君がいなくなって3ケ月後に
カメラ雑誌を手にすると
僕の写真が初めて載っていた
「空ばかり見ていた」

それは君が初めて
僕に抱かれた日
空ばかりみていた
君の物憂げな顔を撮った
あの写真だった

文学極道

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