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作品 - 20080606_628_2819p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


憂欝な週末の夜

  ぱぱぱ・ららら

一、
 
「さあ、皆さんお待ちかねの憂欝な週末の夜がやってきました」
 そう言われてやって来た、憂欝な週末の夜。
 僕は憂欝な週末の夜の為に、原油高のせいで高級食材へと昇格した野菜達を使ってクーリムシチューを作った。
 そしてクーリムシチューを僕と憂欝な週末の夜は、テーブルで向かいあわせになって食べた。他には誰も居なかった。
「確かに、なかなか美味しいクーリムシチューでしたな」
 と食後に憂欝な週末の夜は小学校の校長先生のように言った。ちなみに僕の通っていた小学校の校長先生は、性的な犯罪を犯した、と卒業後に風の噂で聞いた。
「しかし、憂欝な週末の夜にクーリムシチューというのは、どうも違うように思えるんですが……」
 と小学校の校長先生は続けた。
 僕は何も言わなかった。黙っていた。そうかもしれない、とも思ったし、むしろ憂欝な週末の夜だからこそクーリムシチューなんだ、とも思った。
 
二、
 
 クーリムシチューを食べた後、僕らは二つ三つの当たり障りの無い話をした。近況とか、そういった種類の話。僕はいくつかの当たり障りの無い嘘をついた。帰り際、憂欝な週末の夜は嘘つき、と僕に言った。クーリムシチューのお礼にしては、少しだけ冷た過ぎた。
 憂欝な週末の夜が帰った後、僕は文字通り一人になった。ワンルームの狭い部屋、青いカーテン、青いベット、青い目覚まし時計、黒いアコースティックギター、そして僕。
 僕は青いベットに行き、ベットの下に隠しておいた古びた木箱を手に取り、中から拳銃を取り出し、自分の右のこめかみにあてる。それから、引き金を引いた。
 
三、
 
 ここは日本だ。僕の様な普通の生活を送っているような人間には、拳銃なんて手に入れる事は出来なかった。僕の右のこめかみに存在する、僕の拳銃には殺傷力なんて無かった。それでも僕は引き金を引き続けたが、窓から見えるはずの本物の月は、どこにも見当たらない。
 
四、
 
 僕は余っていたクーリムシチューを温め、もう一皿食べてから眠りに就いた。

文学極道

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