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作品 - 20080524_210_2783p

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海、そしてまた海

  ぱぱぱ・ららら

1、海

 僕らが出会ったのは小汚いバーで、僕らはまだ法律上お酒を飲めるようになったばかりだった。
 僕はその頃毎日のように酒を飲みに行っていた。そして彼女にあった。僕が彼女に話し掛けたとき、僕はベロンベロンに酔っ払っていた。彼女は友達二人と飲みにきていた。僕は彼女に話し掛ける。他の二人の女の子は無視。僕は彼女に話し続ける。彼女は笑う。他の二人の女の子は嫌悪感を表明。
 僕らはそれから週末にデートに行くようになった。もちろん彼女とであって、他の二人の女の子とじゃない。映画、動物園、遊園地、その外色々。僕らはそれなりに楽しんだし、幸せだったかと聞かれれば、そうだね、と答えるだろう。
 それでも時間は流れていく。とても些細なことで僕らは別れた。
別れた後で僕らは一度だけ海に行った。何でだったんだろう、理由は忘れてしまった。海へ向かう車の中で彼女は言った。イタリア旅行って映画観たことある? 彼女は映画が好きだった。僕は無いね、と答えた。それ以外にどんな会話をしたのか、僕は覚えていない。何も話さなかった気もする。
 海に着いた僕らはただ海を眺めていた。
 
2、海

 彼女が死んだと聞いた時、僕はあまり悲しくはならなかった。僕らが別れてからもう随分経っていたし、その間僕らが会ったのは海に行った時の一度だけだった。僕は彼女の葬式にも、お墓にも行かなかった。時間は流れていく、それにあわせるように僕らも流れていかなければならない。ずっと同じ所には居られない。それでも眠れない夜には彼女のことを思い出すのだけれど。
 彼女と海に行った後で、僕は彼女の言っていた、イタリア旅行という映画を観た。イギリス人夫婦がイタリアに旅行に行く話だ。夫婦は倦怠期で、夫も妻を、妻も夫を、愛していないように見える。愛は冷めてしまっている。
 ある日、夫婦は地元の人間に遺跡を観に連れて行かれる。遺跡ではちょうど一つの骸骨が発掘されるところだった。夫婦はそれを見ている。骸骨の姿が見えてくる。骸骨は一組の男と女だった。二つの骸骨は寄り添いあったまま死んでいったのだ。きっと夫婦だったのだろう。二人は時間の、人間の、神の偉大さを知り、愛を取り戻す。そんな映画だった。
 僕は眠れない夜に彼女と行った海へ行ってみた。一人で。僕らの前には遺跡も骸骨も現れてはくれなかった。僕は一人海を眺めている。なんだか眠たくなってきて、僕は目を閉じる。目を閉じると、隣には彼女が座っている。彼女は黙って海を眺めている。あの時と同じように。それから僕は深い眠りに落ちた。目を覚ました時、隣には誰もいないのだろう。それでも目を開かなくてはならない。きっと僕が目覚める頃には、ちょうど太陽が海の中から出てくるだろう。

文学極道

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