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作品 - 20080507_802_2745p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


五月 断片

  如月


 一

鎮痛剤が開かれるように
始まる
アルコールの切れ端で拭う空が
落ちている影の片隅に
染み渡っていく


 二

雀が声を忘れていく道
そっと、置かれた言葉で
みたされていく三半規管


 三

溶けようとする
水とオリーブオイル

乳化しきれないでいる僕らが
揺られながら、揺れながら
きめ細かく小さな
気泡を擦り合わせていく

茹で過ぎたパスタだけが
いつも密かに
片付けられている


 四

子供の笑顔に壁が震える
突き抜けるような空に
くたびれている鯉のぼり

新聞紙の兜の折り方を
思い出せないでいる指先


 五

女の前髪のように
しなやかな影が伸びていく
忘れていた声を拾う帰り道

連れて帰るものは
少ない方がいい、と
背を向ける

染まっていく今日を
結べずにいる前髪


 六

いつまでも子供と
膝をおる男

とめどなく
揺れる三半規管で
きめ細かく小さな
気泡を作りあげ
溶け込もうとする


 七

窓枠に切り取られた空
なぞる手のひらが
探している歌
遠い日の声

文学極道

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