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作品 - 20080505_741_2739p

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プリムローズ

  榊 一威

花の香が立ち上る その香に包まれながら差し込んでくる陽に目を少しだけ開けて小さくおはようと云う いつもの通り低血圧の朝だ でも今日は一段と綺麗 ベッドから手を伸ばした先にあるプリムローズは 心地よい温度の中ささやかに咲いている 君は綺麗 もう一度呟いてみる 散るために在るのに こうしている間にもトクトクと時は終わりに向かって進んでゆくのに どうしてこんなに生きようとしているんだろうね 僕たち エアマットに沈むステージスリーの躰が不思議がるのも無理はない ねえプリムローズ 

時計の秒針の進む音をどのくらい聴いていたんだろう 繰り返す一周は僕の時間を正確に捉えてゆく 時にはプリムローズの香りと共に微睡みの底で繰り返した音を 何故か愛おしくおもう 躰が動かなくても不思議とそれを聴いているだけで動いているような錯覚に陥った 囚われていることがこんなにも安心するモノだろうか 枕元においた時計は 普通の腕時計なのだけれども 僕にとっては生きている証そのものだ 一つの花が萎れると哀しくなる それと一緒でこの時計の音がなくなるとき僕は 果たして此処にいるのだろうか

蝕まれた感覚それを解ってはもらえないだろう 痛み、それも無理だろう モルヒネを最大投与され麻痺した頭には掌のプリムローズの感触も時計の音も届かない でも触っているし聴こえている 個室のカーテンは多分爽やかな風に揺れている 僕は今笑っているだろうか せめてプリムローズが咲き終わるまでとは思っていたけれどでも どうして終わりはこんなに生に近しいのだろう 生きている音が心臓の鼓動と重なる 腕時計を巻いてもらう ねえ、プリムローズ 君は綺麗 とても綺麗 そしてゆっくりと意識を失って、




*プリムローズ=シバザクラ、初夏の花

文学極道

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