草の香りを織り込んだ風が
優しく空を広げていく
あたたかくつもる雪の
内側から開く胎児の呼吸
どこまでも昇る手に
さしのべられた太陽が遥か
*
水がすくわれていた
どこからか流れついた水が
泥まみれで遊ぶ子供らに
紫外線を照り返す川で
いくつもの
私たちがせせらいでいる
名前も知らない花
知らされる事もない花
すくわれなかった私の指先から
てんとう虫が飛び立とうとしている
*
沈んでいく今日を
許していくような夕暮れに
溢れていた声が
いっせいに帰っていく
コンクリートに跳ね返された
声たちだけが
置き去りにされている
知られる事もなく
知らされる事もなく
そっと
*
たんぽぽだけは
ちゃんと区別が出来る子供
流れていった水
すくわれなかった声
過去も、また現在も
風に吹かれて
羽ばたいていく
たんぽぽの種に憧れている子供
いつまでも
種だけを見つめ続けている
私たちが
風が無音として
響かせている空へ
ゆっくりと
いっせいに流されていく
最新情報
選出作品
作品 - 20080430_604_2727p
- [優] 春に流れる - 如月 (2008-04)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
春に流れる
如月