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作品 - 20080425_432_2716p

  • [優]   - 凪葉  (2008-04)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  凪葉

昨日降り続いた雨は、まだ止んだばかりなのか、見上げた朝の空は、一面を巨大な黒い雲と白い雲とが点在する穏やかな空で、その僅かな隙間から、例年よりも幾分か熱い、太陽の光が降り注いでいた 
 
道の脇には、まだ耕されたばかりの畑が広がり、トラクターの跡だろうか、いくつもの窪みに溜まる水の中、ちょうど開けた空の青が、真新しく吹く風にゆられている
沸き上がる土の、どこか懐かしい匂い、街を城壁の如く囲み連なる山々には、雨上がりのせいか霧はなく、若葉の混じるその姿の上を、鳶が一羽、ぐるぐると気持ち良さそうに旋回を続けながら、高くたかく上昇していくのが見えた
 
 
行く道には、たくさんの花がばら蒔かれたように咲いていた
植えられたばかりの小さな桜の、淡い桃色や、畑と向き合うように流れる水路に咲く、名も知らない花の純白
まるで花束のように、一点に集中して咲く馴染み深いたんぽぽの、眩しい黄色と、
空を宿した瑠璃唐草の、澄んだ青色、はじめて名前を覚えたのだと、妻が微笑みながら言ったのを思い出し、しゃがんで、そのひとひらに触れた時、ふわり、と、あたたかい風が花をゆらして、いくつもの花びらの上から、雨の滴を落としていった
 
 
くねくねと続く道の先の、一番大きな曲がり角を越えると、またひとつ大きな畑が広がっていた
その畑の向こう側に植えられているりんごの木々には、黄緑色の若芽と、赤い色の小さな蕾が生え、その近くには、梨の木が白い花を咲かせている
畑の隣には別の畑が広がり、その隣にまた別の畑が広がる、その連なりの合間を縫うように、古い家が崩れそうな具合で建っていた
 
 
見上げると、さっきまで空に点在していた巨大な雲の群れは、薄く伸ばされ、消えてしまいそうなくらい透明になって、後ろに在る空の青が微かに透けて見えていた
ふいに、砂利を踏む音と共に、前方の畑に乗りかかるようにして停車してあった軽トラックが動きはじめ、私の進む先へと、ガタガタといびつな音を鳴らしながら走り去っていった
その姿をぼんやりと見送った後、ふと視線に見える山の麓辺り、目の前にある木の間から、光の曲線の一部がうっすらと見え、
よく見ようと少し場所を移動してみると、それはやはり虹で、山の麓から隣の山の頂き辺りまで、橋のようにかかっていた
 
 
軽トラックが消えた畑の中には、よくみると年輩の女性が、腰を屈めて農作業をしている
時折吹く爽やかな風に体を持ち上げるわけでもなく、ただひたすらと作業を続けている
虹、虹には気づいていないのだろうか、そう思いながら、さっきよりもやや歩調を落としつつ歩きはじめた
女性の横を通り過ぎた直後、ひとしきり強い風が吹いて、春のやわらかな匂いが轍となってやってきた
虹はまだはっきりと山から山へとかかっていて、しばらくそこで立ち止まり眺めていたら、急に、たまらなくなって、その場で振り返り、女性にむかって、薄い光が射す虹のかかる辺りの空を指差して、虹が出ていますよ、と叫んだ
すると顔を上げて、虹に気がついた女性は、すぐにこちらに振り返り、ありがとうと、手を上げて、帽子の下、しわくちゃの顔でにっこりと微笑んだ

文学極道

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