*
夜おそく
妻が購ってきた酸漿の花
市には露店がたち並び
ひとつの庇は
別の傾きへとさし換えられるようで
見ているそばで胸が苦しく
包装紙は
濡れていたという
私は食卓に持ち込まれた
黄色く
つましい明るみを
不思議な橋のように感じた
*
手のひらを
そっと打つのだが
果たしてどちらが鳴ったのだろう
兎に角ふるい設問なんだと
私は
既に萎れかけている花をはじき
化粧をおとす
耳飾を解いていく
ちがう時刻へと
通り抜ける
妻の気配を近くにしながら
くり返してみた
*
*
季節の変わり目は
いつも
何故だか俯いてしまう
酸漿は
花でなくなり
とても現に思えないのだが
紅く壊れやすい紡錘形
器用に中身を縒りだすことができると
いき返るから
妻がいう
私は応えなかった
次の市がひらく迄に
雨は降り止むのかも知れない
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選出作品
作品 - 20080228_581_2632p
- [優] ホオズキ笛 - 黒沢 (2008-02)
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ホオズキ笛
黒沢