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作品 - 20080216_407_2613p

  • [佳]  唯の夢 - 菊西夕座  (2008-02)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


唯の夢

  菊西夕座



隣接するお向かいさんのさびた二階の窓枠のなかで
剥製にされた月下美人が唯の夢を見下ろしています
唯は夜ごとに悪夢をみます
10キロ逃げても悪夢から覚めることができません
それは春の守衛の子守歌
クリームシチューをとろとろ、とろとろ、溶かすように
唯のまぶたをくすぐります
唯は守衛に阻まれて
冬から一歩もでられません
しかたがないので温泉街に出向いても
湯船に氷が浮いている始末です
足のむくみはとれません
昔は春の同級生だったのに
いまでは彼女が唯を閉め出します
くやしくて、氷のつぶてをぶつけてみても
まぶたの下にしみこんだ白い夢を
さますことはできません
思い切って温泉宿の二階の窓から飛び降りてみると
剥製にされた月下美人が唯の足にからみつき
いっしょに食べられてくださいと泣きつきます
ですから唯は鉢植えにつるされたまま
肉薄するお向かいさんのさびた二階の窓枠のなかで
自らの夢にうなされる姿を見守ります
クリームシチューをとろとろ、と、溶かすように
ひびわれた唇から、せめてものやさしい子守歌を送りながら
ひとり卒業できない夢を見守ります

文学極道

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