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作品 - 20071215_208_2499p

  • [優]  鉄分 - ゼッケン  (2007-12)

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鉄分

  ゼッケン

スーパーの野菜売り場できゅうりを一本ずつ折っていると
緑のエプロンをつけた店員さんがとんできていきなり正解を言う

そんなことするのやめてくれませんか、買う買わないの話以前にみっともないから

きゅうりを真ん中で折るのは難しく
左右の
どちらかの手で持った方の端に近いところでパキリ、と
新鮮なしぶきをあげて中身の白い腹を見せ
折れる、緑色のイオンが
飛び散る幻影が
空気を洗ってくれる
そんな気がする
信じるものは救われるというだろう?

破壊の帝王です
ぼくは言った、店員さんが腰に手を当てて黙ってぼくを見ていた
ぼくはすこし慌てて付け加える
きゅうりにとっては、という意味です
大根はぼくには無理だった、ぼくはすでにぼくの限界を認め、その非力を恥じていたのだった
しかし、じつを言えばそれはより大きな恥をかかないためだったし、しかも
スーパーの野菜売り場の店員さんにはいくらぼくが恥をかこうと同情する義務などありはしないのだ
もしも自発的な共感の結果、同情しえたとしても
スーパーの野菜売り場のエプロンをつけた店員さんにはぼくの非力を
同情はできても許すことはできない、
ぼくの非力を許す権利は与えられていないはずだ、なぜなら

パートタイムだからだ

客がレジで金を払うまでは野菜が食料でもあり生ゴミでもあるこの野菜売り場の不確かな聖域で
店員さんは流れを見つめているが流れを止めることはできないはずだったが
腰に手を当ててエプロンをつけた人物はぼくにみっともないからやめろと結論した
胸のネームプレートには名前が書いてある
ぼくはその名前を覚えておこう
恋をした

ちなみに、ごぼうも折れないが
それは別の話になると思う

文学極道

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