見渡すと、
目線を越える細長いものや
大きな塊が、いくつも立ち並んでいた
遠くの雲は薄赤く染まり
もうそろそろ暗闇が来ることを告げている
その、移り変わりを眺めていた
「昔は、もっと緑が溢れてたって、父さんが言っていたのを思いだしたよ」
「うん?」
「いや、」
そしたらもっと、住みやすいのかな、
吐き出すように出た言葉に、
きみはこくりとうなづいた。
*
カーブを曲がると、さっきよりも空が赤くなっているのに気が付いた
「空、きれい」
隣に座る彼女が言った
ぼくは、道が直線になった所で、窓の外に目を向けた
「建物があってわからなかったけれど、もうあんなに赤くなってるんだね」
「ね、きれいでしょう」
「うん、田舎は空が広いなぁ」
電信柱と、街灯が等間隔で配置されている平坦な道は
どこまでも真っ直ぐに続いているかのように思えた。
*
段々と、薄赤く染まる世界
辺りには、青黒いベールが段々と降りてきていた。
向こうは、なんて明るいんだろう
「向こうまで行ってみる?」
「ううん、ここでいい」
ここがいいの、と、ぼんやりと夕空を見つめながら
きみは言った。
ぼくは肌が触れるくらいまで、
そっと近づいた。
「もうちょっとここに居てもいい?」
そう言ったきみの瞳が、赤く染まっていた。
ぼくは、「いいよ。」と言って、沈んでゆく世界に目を向けた。
乱立する塊が
ひとつひとつ、ゆっくりと燃えていく
きみは、燃える世界を
何も言わず
まっすぐに見据えていた。
*
バックミラーに反射する光
周りに降りてくる夕暮れ
さっきよりも大分陽が沈んでいるのがわかる
「燃えてるみたい」
後ろへ倒した助手席に寝転がる彼女が言った
地平は燃え、
通りすぎる建物は
夕色に染まっていた
アクセルをはなし
急なカーブにさしかかる
カーブは夕陽の方へ向かっていた
先に広がる景色と、先に続く道とを平行して見ていると
何段か高くなった場所に
何かを仕切るように置かれたフェンスが見えた
網目から光が散らばる、
その上に、二羽のカラスが座っているのが見えた
地平を焼く光をあびながら
寄り添うようにして
夕陽を見つめていた。
*
カーブを終え、落ちる陽の先へと向かう
きれい、と、また彼女が呟く
ぼくは、もう見えないとわかっていながらも
バックミラーに目を向けた
フェンスの上、
暮れゆく世界を見つめる、二羽のカラスの残像が
いつまでも、意識から離れなかった。
道はまた
まっすぐに続いていて
やっぱりそれは、
どこまでも続いているかのように思えた。
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