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作品 - 20070817_175_2280p

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秋の眠り

  疋田

深海に無数の驢馬が横たわっている。それらを泥雨がひたすらに打ち付け、海中なのに、と呟いた父親は、秋を知らない。そんな父親が瞼を閉じれば、水圧はいよいよ上昇し、眠りが具象して顔を持つ、唇しか無い巨大な顔、もう父親は居ない。半開きになった口からは涎が垂れ続けているというのに、拭う手も無く、全ての驢馬は縮んでしまい、海の底に私は無い。肥大する、眠りが肥大する、肥大している。顔を持った眠りが、多くを思い出そうとして、無いはずの瞼が何枚も何枚も、閉じていく、だから泥雨は見えない、思い出すものなんて始めから無いのに。眠りは。肥大する眠りは深海を埋め尽くし、私は、その中で確かに死んでいたのだろう。泣き続ける、秋の眠りを追って。

砂丘に無数の驢馬が横たわっている。それらを泥雨がひたすらに打ち付け、秋から秋へ、いつまで経っても冬が来ない、だから私は秋しか知らない。そして何にも考えず、ただ、何処へも行かない気球を眺めていた真昼間。開いているはずの瞼がもう一度開き、私は、ジグソウパズルに成った自分の体を必死に組み直していた。どうしたってピイスが足りなくて、一瞬の永遠はしっかりと私の腕を掴む。やけに世界が近かった。遠くでは二匹のアラビア調のアブラ蝉がこそこそ話をしている。暗雲がおどろおどろしい、雨の降りしきる砂丘でだ。眠りは。眠りは泥雨の間で一層深まり、おいてきぼりにされた私は、また、瞼を開けることになるのだろう。泣き続ける、秋の眠りを追って。

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