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作品 - 20070301_546_1878p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


milk cow blues

  一条

おんなは、国道をマイナスの方向に横切った
足を引きずり、
店に現れたピアノ弾きは、後ろ手でロープを緩め、
慣れた手つきでdEad Cow blUesを演奏した
ドミソの和音に支配されたその音楽は、ら知#れ、知#れそ、靴擦れ、また、靴擦れだ
となり街の石油コンビナートから、
煤煙が空を、
洞察的に立ち上がっていくのを、
世界中に設置された火災報知器は、
ただ静観している
突如、出張所から、一台の消防ポンプ自動車が出動した
そいつはフル装備で、赤色灯を回転させ、
いつだったか、
妊娠したおんなの腹に黒い海が見つかった
海はみなみの方向に流れ、
やがて星々へとなった
卵形のいまいましい星々が、
おんなをいれものにする
おんなは、
いまいましいむすめをだきかかえた
わたしのむすめがつくった童話は、
赤い兎がうそをつくお話で、
むすめの皮膚は、
お話の途中で、赤くただれた
草原が赤い兎を飼い、
老婆からの電話で目がさめた
わたしは、ながれていくものを相手にしているのだ
むすめがつくった童話には、
けつまつがなく、
ぬりえからはみだした、赤や黒がうみにながれていく
にんしんしているおんなの顔を、
ひとつ汚すたびに、
むすめは、あたらしいコインを手に入れた
コインをたくさんあつめると、
好きな人に出あえるという恋まじないのようだ
時計の針が、
ぐにゃりと折れ曲がり、
むすめは、わたしと目があうと、
針の折れ曲がったほうこうに、
敬礼をしていなくなった
あなたがまだうまれたばかりのころ、
父親によく似たやさしいクジラと泳いだことは、
忘れないで、うさぎちゃん
おれは、
牛が殺されるのを待ちながら葬列の先頭がどこにも見つからないことに
気付いていた
そいで、
死んだ牛のブルースが、
暗号的に処理される棺の中、感染した販売所から百万頭の牛のドミソが、
一匹残らず失われていくのを、
加えて何かを、
鎮火した消防ポンプ自動車は、朝焼けの国道をひきかえした
何を鎮火したのかは、
いつまでもわからないまま、
あのピアノ弾きが、
ゆっくりと、おもむろにdeAD BeEf blUEsの演奏を始めるころ、
その音楽に耳を傾けているのは

静かにしろ、ここは、警察だ

文学極道

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