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作品 - 20070221_393_1859p

  • [佳]  グラフ - ゼッケン  (2007-02)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


グラフ

  ゼッケン

風のない空から
ゆっくり降ってくる雪は
漂白された羽毛に見え、それが
西洋人の友人に
天国を連想させたらしい
天国とはトリ小屋のような場所らしい

死にたいと思ったことはない
死んでもかまわないのだが

こんな嘘をついて気さえ楽になれば
ぼくらもまだ生きていけるということだ

雪は地上の引力と空気の抵抗がつりあった一定の速度で
まるで
糸で引っ張られているかのように
地面まで落下してそこに積もる
地面がなければいつまでも降り続けるのだろう
一定の速度で
速くもならず
遅くもならず
どこまでも
ただ、決まった方向へ
その方向へ向かって
ぼくらが上昇し続けているのかもしれない、静かな
トリ小屋のような場所へ

会議室のドアがノックされ、窓の外を見ていたぼくらは振り返り
時間どおりに部屋へ入ってきた中国人と手を握りかわし
着席したぼくらの目の前のスクリーンには
グラフが次々と映し出される
死の瞬間さえスキップできれば
死そのものは怖くないのだが
脳のネットワークがぷちぷちとちぎられていく
その時間さえなければ

中国人はどう思っているのだろう

もっとも、彼らは死なないのかもしれない
そうじゃなければ
彼らの数の多さを説明できるのだろうか
いつかは死ぬとしてもそれは
ずいぶん先のことなんだろう
ぼくの国の人口は減る
それは毎日生まれてくるより死ぬ人間の方が多いということだ
ネットワークがぷちぷちとちぎられていく
虫食いの脳は幻覚を見るそうだ
白いシーツのベッドが並んだ清潔なトリ小屋のような病院では
その頃、老人となったぼくが片腕に孫のようなクピドを抱き
もう片方の手でむしった羽を地上に降らす
数の少ない人々の頭上にも雪が降るだろう
彼らはそれがどこから来たか分からない
ぼくが天国にいることを知らないからだ
ぼくだけでなく、みんながそこにいて
風のない空から雪を降らせる
少なくなった人々が
ふかふかのベッドにふたりでもぐりこめるように

グラフの数値について検討したぼくらは
ノートパソコンを閉じて会議室を出る
今日はダウンタウンのフランス料理屋にランチの予約を入れてある

文学極道

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