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作品 - 20070118_631_1781p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


残酷のひと

  三角みづ紀

透明な硝子でできた様々な形の花瓶を気違いみたいに
並べて
それぞれに千日紅を三本ずつ
飾ってみたい
なんて思うのです
いじらしく
控えめに
凜としている
千日紅のような
にんげんになりたいのでした


抗うつ剤が倍になった
飲まないけど


あの子がくれたメール
千日紅のように
あまりにも凜としているから
心臓が
くしゃり
と音をたてます


眼球から
きれいに剥がれ落ちたもの
儀式をしましょう
体の芯から冷えていくような
そんな儀式を


可愛いあの子の柔らかな言葉がわたしを紡いでいきます
気がつけば脇の下に潜り込んでいるのです
あの子には
わたしとはまるで違う血液が流れているのだけれど
いつか
わたしの本当の子供みたいに
それすら同じになるでしょう


枕元で鳥獣戯画の動物たちが踊っている、ミシンがやたらと音をたてるのだ、焦りを噛み砕いた、いかようにもなってしまう朧気な生活、処分した処方箋たち、あまりにも濃い写真たち、眠ることのできない事実、満月が恐怖、いやらしいもの、いやらしくないもの、枕元で鳥獣戯画の動物たちが踊っている、おかあさんなぜわたしをうんだの
なぜわたしをうんだの?


いま血が流れました
早川さんの
いい娘だね

繰り返し聴きます
際限なくあの子のことを連想しました
あの子はとても千日紅だから
まさに
奇跡のひと


あの子を壊しているのは
きっとわたし
そのことに気づいた夜
なんて取り返しのつかないことをしてしまったのでしょう

鳥肌がたちました


夏至の祭り
てのひらがやたらと遠い
水面に浮かぶのは
海豚の玩具と愛くるしいあの子
抱きしめてもいいでしょうか
涙は
赤裸々に流れるから
海水みたいな味がするのです
気づいていたんですね


わたしが毒
わたしが薬
宝物はあの子
空はいつ見ても空である事実に驚愕しました
知っていたんですね


わたしは懲りずに生きています
千日紅のようなあの子のために
生きるのです
いつまでも生きていますからね
千日紅のようになりたくて
生きるのを止められないんです
止められないんですよ

文学極道

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