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作品 - 20061222_016_1718p

  • [優]  n.d. - コントラ  (2006-12)

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n.d.

  コントラ


クリーム色の廊下を歩いていた。クレンザーの匂いがする、つややかにひかるエナメルの、窓のしたに黒い制服が集まる、午後。溝の底を金属でさらう。飛行船が音も無く飛んでいる、空。2年生の色は黄緑で、目の細い彼は机を蹴飛ばし、小さなネジが幾つも飛び散った。ロッカーの鉄板はゆがんでいて、マーカーで印をつける。細い目。いくつもの細い目が僕を見ていた。教壇にはチョークの粉が飛び散っている。紅潮した頬。林檎のよう。窓ガラスがピリピリしている。忘れ物をした。空っぽの弁当箱。

ブレザーをこすった。肩に手を置く。髪の毛を引っ張る。廊下に集まる。ゴム製の靴底。ニスに濡れた黒い廊下、の奥に見える非常ベル。白い扉。角を曲がると、ポケットに手を突っ込んで、にやりと笑う。僕の前に立つ、意味は、なんなのだろう。ぼんやりと校庭を見ていた。マンガ雑誌の付録の、中学生の作文。水道がもれている。雑巾を絞る。踊り場の天井。斜めの校庭が見える。すれ違う。廊下が、すべる。クレンザーの匂い。教室の扉は開いていて、誰かがもたれている。笑い声。落ち着かない視線。

階段を上がると、壁際に立っている。女の子たち、が笑う、ガラスが揺れている、ドアは、真鍮のノブ、少し開いている、目の細い彼が近づき、長い足で僕を蹴った、とき、僕は、昨晩のおかずのことを考えていた。テーブルに並んだ、目玉焼きと、温野菜と、台所の向こうで仕度をする母と。かみ殺していた。すべて。子供部屋で、僕は、何も考えることができなかった。ただ、どうにか、そのお椀にもられた味噌汁を、こぼさないように。そう、母さんはいつも僕にそう言っていたっけ。手をはたいて、立ち上がる。目を合わせない。誰とも、目を合わさないで、僕は、生きていくんだ。きっと何年たっても、大人になっても。

だから僕は、船に乗るのか、乗らないのか、いつもすぐに考えなくちゃならなかった。荷物をまとめて、出発するのか、どうか、ということ。

文学極道

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