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作品 - 20061202_721_1685p

  • [優]  堕胎 - 中村かほり  (2006-12)  ~

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


堕胎

  中村かほり

蝶に追われるのは
わたしのからだが
あまいものでみたされているからだろう

半日おりたたんでいた指をのばすと
そこから朝がはじまるから
光に飢えた子どもたちが
とおくの空より落下する

あしの使える者は走って
使えぬ者ははらばいになって
わたしのもとへとやって来る

けれども彼らは
乞い方を
学ぶまえに再生してしまったから
わたしの指先を
ながめるだけしかできない

街のほうでは
檸檬の配給がおこなわれていて
半裸の女が
うつろな目をして順番を待っている

いますぐにでも駆け出して
あなたたちのうしなった
子どもはここにいるのだと
伝えたいけれど
檸檬のにおいがただよう街のなかに
蝶をともなっては行けない

もういちど指をおりたたんで
あたりを夜にする
わたしのだ液は
蜜のようにあまいから
いちめんに咲く花のうえに吐き出して
視力のよわい蝶をだます

生まれたかった、と
声をあげはじめた子どもに
光をあたえることはできない

けれども彼らのために
あしたもあさっても
女たちは檸檬を待ちつづけるのだと
告げることはできる

あちら側から風が吹いて
瞬間
ただよった檸檬のにおいに
子どもたちは顔をしかめた

蝶に気づかれぬよう
わたしたちはしずかに
街のほうへ行く

文学極道

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