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作品 - 20060925_789_1571p

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つまり愛とかなんだろう

  中村かほり

あたしたちは腐敗してゆく。
12日、ようするに288時間もあたしと男ははだかのまま床のうえにちょくせつ寝ころんでいる。男はあたしのだ液を飲料水として飲む。あたしは男のだ液を飲料水として飲む。おなかがすいたらはらばいになってベランダに咲いている花の蜜をすう。軟骨や歯、その他の器官はすでに退化してしまって、あたしたちはとてもたんじゅんなつくりになっていた。夜、あたしは男をふとんがわりにしてねむる。肌のないあたしたちはずいぶんかんたんに体温を交換できる。男の背中が冷えればこんどはあたしがうえになる。そうしてころころと部屋のはしからはしまでころがると朝になるのだ。ひまなときは過去のはなしと現在のはなしと未来のはなしをした。それでもひまなときはかずをかぞえた。1から100。100から2000。あたしたちは寝ころびはじめて9日くらいから、鮮度とかはもうどうでもよくなっていて、だから皮ふの腐敗がはじまってもおどろかなかったし、つぎはどこが腐敗するのかとわくわくした。手をつないでねむっていたら、手が腐敗して、ひとつになった。キスをしながらねむっていたら、くちびるが腐敗して、ひとつになった。意志伝達が困難になるから、舌をあわせて眠ることは、やめた。この状態に社会的な名前をつけるとしたら、きっと愛と呼ぶのだろう。けれどもあたしたちはもうひとではなくなっているから、それがただしいのかはわからない。男ののどがかわいたらあたしがうえになって、彼ののどにだ液を落下させる。あたしののどがかわいたら、男がうえになってあたしののどにだ液を落下させる。冬になれば花はすべて枯れるだろう。でもそのころにはあたしたちはあたらしいいきものになっているから、不都合はなにもない。あたしたちは腐敗してゆく。

文学極道

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