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作品 - 20060526_173_1291p

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レインフォール

  月見里司

 区画整理された綺麗なニュータウンの公園には滅多に人が寄り付かない。今も当たり前のように公園は無人で、手入れだけは充分な植え込みのツツジが褪めた色の花をつけている。雨が降っていて、辺りは青い薄闇に包まれている。敷き詰められた赤レンガ風のブロックは水が滲み込むこともなくただ濡れ、曇った鏡のように周囲の風景をおぼろに映し出している。大きい雨粒が落ちるたびに風景は歪み、割れる。雨粒は傘も打ち、雨音は鼓膜を打つ。雲は厚く、鏡が割れる音が届くことはない。

 (レインコートを着た少女が踊っている。見えない相手の腰に腕を回して、三拍子のステップを踏んで踊っている。レインコートは小学生の傘のような眩しい黄色で、辺りの青い薄闇から一段浮き出ている。目深にフードをかぶっているのでその表情はわからない。背は高くない。レインコートを着た少女が笑っている。踊りはやめぬまま、時折体をふるわせ、片手で腹部を押さえて笑っている。離れているのでこちらに笑い声は届かない。傘は差していない。風が吹く。ブランコを揺らし、滑り台を降り、シーソーを傾け、運梯を渡り、ジャングルジムをすり抜け、私の傘を飛ばし、少女のフードを取り払う。長い長い髪が一瞬だけ広がり、濡れてしなやかに体にまとわりつく。黄色に絡む黒。少女は笑うのをやめる。少女は踊るのをやめる。少女が私の傘を拾う。少女がこちらを向く。私は少女の顔を)

 随分と強くなった雨はチャンネルの狭間のような音を立てている。数本だけ植えられた背の高い広葉樹がノイズ混じりの風に煽られてざざ、と震え、鏡像はうつろな目でこちらを見る。傘を差し、灰色と濃青の緞帳に背を向ける。側にあるベンチの下に段ボール箱が置かれていた。口は開いていて、汚れきった青い薄手の毛布が敷いてある。中身は、入っていない。

文学極道

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