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作品 - 20060504_667_1233p

  • [優]  恋人 - しょう子  (2006-05)

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恋人

  しょう子

魚の眼をした彼氏が「愛してる」と言った
愛ってなんだろう
それってチョコレートより 美味しい物?
少女に成りすました私は そんなことを言ってみたりする

「僕の足が無くなるのと君と別れるのだったら、僕は君と別れるよ」
ある日彼はぷかぷかと煙草をふかしながら そんなことを言った 
「魚には足が生えていないじゃない!」
私は思わず言ってしまい あっと口を噤んだけれど
魚の眼をした彼は それ以上何も言わず
吸いかけの煙草を残して
煙だらけの部屋を一人で泳いで帰ってしまった

次の日目を覚ますと
まだ部屋は縹色をした朝だった 
ピーっと遠くで何か鳥の鳴いてる声がして
ふと隣を見ると 彼はちゃんと私の隣にいて
魚の眼を見開いたまま 静かに寝息をたてていた

―――何処まで泳いできたんだろう
心なしか尾びれが濡れて シーツに染みが出来ていた


私がバターを塗りたくったモーニングパンをひと齧りし
冷めかけたブラックコーヒーに口をつけようとした時
彼は重そうな尾びれを引きずって起きてきた
そして まるで「おはよう」の挨拶をするように「愛してる」といった
ぷくぷくと口から卵のような泡が零れ落ちていて
日に日に彼は魚らしくなっている


そしてその晩 ついに私は寝静まった彼を 
綺麗にさばいて食べてしまった
魚の眼をした彼は ずっと魚の眼のままで 
生臭くて チョコレートよりも美味しくなかった

鱗のへばり付いた手を洗剤とタワシで擦りながら
ふと三角コーナーに目をやると
魚の眼をした彼が じっと私を見ていた


―――愛ってなんだろう?
大人になった私も まだわからないでいる

文学極道

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