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作品 - 20060426_369_1201p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


A・K  夏の椅子

  りす

子供があんまり見上げるので
座っていた椅子を踏み台に
ちょっと つま先立ち
夏蜜柑 ひとつもいで
白いブラウスの袖できゅっとひと拭き
A・Kは白が好きで
白を汚すのも好きで
「重曹かけて召し上がれ」
ツバキの垣根を越えて
夏蜜柑 ごろり
おっきいねえ
おっきいよ
すっぱいかねえ
すっぱいぞ
ジューソーカケテ メシアガレ

おかーさん、
ジューソーが必要だよ、ジューソー
ほらほら、夏蜜柑
あ、
あーあ、 重曹 ね。 しゅわしゅわ ね。
暗い戸棚の奥から小さな箱
ほんと 見事な夏蜜柑
これが あの、
うん これが あの、


カミキリムシ
蜜柑の枝から飛んで
黒と白が滲みあう硬い羽
カミキリムシ
A・Kの白に止まり 
羽に閉じ込めた あと さき
ブラウスの二の腕をのぼって

A・K
カミキリムシが、

呼びかけてもそよともせず
木を食べて暮らしてきた虫が
もう肩にまで迫って触覚が
白い首筋をくすぐりそうで
触れたなら A・K 笑うといい 
ギシギシと機械の音を鳴いて
ほら、カミキリムシ、侵入して、


A・K
眠って
いるのか。

初夏
夏蜜柑の白い花を無闇に摘んで
椅子の足元に敷きつめて踏んで
その香りたちのぼる
夏を隔離して ひとり
摘めば摘むほど
残された花は大きな実を
と知るまもなく
誰もが仰ぐ果実を
仰がないで
A・K
夏を椅子に仕舞ったまま


A・Kが椅子にいない日
ツバキの垣根を越えて
重曹の箱をポケットに
椅子を踏み台にして
ちょっと つま先立ち
届かない 
子供は
もう少し背伸び
椅子はよろめき
できない
夏蜜柑
届かない
A・K
夏の高さ

文学極道

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