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作品 - 20060405_852_1140p

  • [佳]  祈り - fiorina  (2006-04)

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祈り

  fiorina



かまどの火がはぜる 早朝のくりや(台所)で
家のあちこちに祭ってある神と仏に手を合わせる

ご飯が炊きあがると
真鍮の高台の小さな器に六つ
こんもりと盛り上げ
朝ごとに供えた
おなかの空かないらしい神様たちの残りを
温かいおひつの隅に戻して食べるのが
祖母と母の朝食だった

一年に一度
神や仏の道具はていねいに縁側に運ばれ
父の手で白い液体をかけて磨かれる
子どもたちも手伝った

傾いていく家で
思いがけない現金が残った年、仏壇だけが豪華になった

そんなにまでしても
不運は次々と家を襲った
世代が代わって明るい兆しのように生まれた子どもも
二つになったばかりで海に浮かんで発見され、
傍らにいた小さい兄が、心を病んでいる
暗い影は今も、大きな瓦屋根を覆っている
その周辺で諍いを重ねた大人たちは
皆仏壇の中に入って
祈りは形ばかりが残って

朝夕に遠く近く
手を合わせ続けた祖母と母
あれは何処に届いたのだろう

甘えん坊で怒りん坊だった私の兄は
悲しいほどやさしくなった


  *


異国の町で
私のあだ名は「ひとりぼっち」だった
バスの窓から家々の庭に見とれ、終点で降りると
決まって山道に一人取り残されている

けれども
木々の間から
深い瞳のような空が現れるとき
祖母や母の祈りが
祈りを知らずに育った私の上に
ふいに降り下るのを知った
走り過ぎるバイクの群れが
「ボン・クラージュ!(頑張れよ)」と声をかける

夕暮れの町におりると
行き過ぎる若いふたり連れが
「ひとりぼっち」と、ささやいては振り返る
優しくもなく 冷たくもなく

文学極道

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