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作品 - 20060403_755_1124p

  • [佳]  黙契 - 樫やすお  (2006-04)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


黙契

  樫やすお

人の影が
また私を迎えた朝だった

「さようなら」

朽ちたベンチが
おまえの居場所だ
だがそうやって目が覚めたときに
おまえがいつもそこにいた


(ここから消えてしまえ)
おまえはもはや肉声しか聞こえない
鉄柱をこする陽の音がする
おまえの行く先もまた
反転し続ける


(外部ではなくて内部から)
すがりついてくる肉声が
水上でわれた
それまでの視線から逃れでた私が
すでに包まれていた
それまでのほんの数瞬の間を穏やかな陽にあたり
おまえは
池の底に身をたくわえている魚類の皮を剥いでいた


(それは銃声だ)
足跡にそっと触れる 
地べたでもがきそこなった人間が互いの背中をさすりあっている
おまえを呼んで
皮だけでかろうじてつなぎとめられていた右手がぼたりとおちた熱を
おまえは感じた
ほらそこに おまえの足許に
窓の床がある
尾びれを
木陰で休ませてあげなさい


(わずかな位置をずらしあい)
吹き消された
水面に静もる雪のように
覆いかぶせてくる森の
繁殖がたまる
雨にぬれた羽がほぐれたときに
それもまた陽にあたる
葉をふるう薄靄の中を歩く
土にこぼれおちた何もないようなひしめきが
やさしいステップを踏んでいた

文学極道

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