角が生えた
僕は髪のない少女の爪を
食べる
少女はひとつの裸足
沈黙は溺れる船の鉛の錨
乾音が寝静まった気配に傷痕を信じた
磨かれた合奏のように
塞げない清らかさが
少女は水面に映る顔を
見ようとはしない
傷ついた水を
同じ仕草で
織り交ぜ続ける
月はバラ線
赤くなった
少女は
指、
まだ見えなくていい
ずっと先に延ばしていた
少女はひとつの物語
僕の角は欲した
それなのに少女の爪を
唾液で溶けしんだ指先を翳して
睡蓮のこわばりのように
少女はすっと前を睨む
夜光虫は色とりどりの夢を見る
僕の角は欲されている
動物の皮のように滑らかな
それは
悠然と宇宙を見つめている
その先にある終わりを
少女の指は綺麗だったのに
僕の角は始まりに
踏み入れる
進化でいいと思う
取り戻しているのだ
肩の高さまで両腕を持っていき
ずいとふり下ろした時のことを
音が沈む速さで辺りは永遠と化し
僕と少女しかいないことを
まるで誓うかように
踵にへばりついた泥を切った
少女は老化しない
美しい知らせを受け
髪の毛の全てが抜け落ちたけど
僕が少女の横顔を眺めている間
腹の中では狂おしく少女の爪がシュッ
シュッと半円を描いている
たまらなく
少女は薄いほっぺたを膨らまし
僕の角を落ち着いた動作で取り払い
赤い月はまじまじと鬩ぎ合う
ゆっくりと僕の内部に踏み入れる
陰影を啜る音
赤い月から伸びた赤い棘を背に受け
そして僕は少女の透明な髪を見た
バラ線が包囲しているのだ
頭へと水が急速な高鳴りで流れ込み
少女には無音の靴が訪れる
僕と少女とか細い腕は
続かないと続いていく少女
振りほどくこともない
角も少女も超越する
思慕は見る間に融解し
推古するように
再現された指が何本もちらつき始める
少女の映像が脳水と触れ合う
はかれない距離感が
やっと爆発する
そして傷ついた水を織り交ぜ続けるに等しい無音
楕円形の口内に
宇宙がとじこめられ
水滴は最後まで事理も許さずに滴り落ちた
黙ってバラ線に透きとおるよう
横たわる愚か
顔は
浮んでいる
ほうぼうに顔が浮んでいる
余白
最新情報
選出作品
作品 - 20060401_678_1118p
- [佳] 磨かれた合奏 - he (2006-04)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
磨かれた合奏
he