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作品 - 20060327_467_1090p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夜半に

  fiorina

   いさかいのあと
   夜半に林檎をむいて
   夫と食べる
   少し傷んでいて甘い


   にんげんも
   この方がおいしいかしらって言ったら わらった
   一九年いっしょに転がっていて
   わたしたち
   すこしだけおいしくなったのか


   あなたにも
   傷や汚れを厭う季節があって
   あのころはふたりして
   沈黙の しぶい果汁をなすりあった


   傷んだ林檎のとなりの林檎が
   触れあった一点から
   いつしか損なわれていくように
   まろやかになってしまったね
   耐えきれずに


   今夜
   変色したその一切れを
   黙って口に運ぶ
   あなたのなにげなさは
   わたしが
   獲得したものなのか
   うしなったものなのか


   いさかいのさなかに
   忘れられない記憶の夜をたぐり寄せて
   わたしが黙りこむと
   すさんだ視線のさきをそらす口調で
    (いつか観た映画の)
   「死の棘」みたいだねっていったりするから
   わたしは
   表情をくずせないまま
   和んでしまう
   そんなわたしたちの棘は もう
   死を孕まない?


   なじんだ暮らしの舌に
   ときおりしみる記憶のように
   とがった夜の先端が
   そっと触れているものが
   歳月という厚い実に抱かれた種子のような
   かなしみと やさしさを
   思い出させるなら


   皮膚のうちがわに棘を包んで
   すこし病んでいること
   すこし傷ついていることは
   わたしたちの希望だ

文学極道

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