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作品 - 20060317_284_1062p

  • [優]  蓮華 - りす  (2006-03)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


蓮華

  りす

夜の音を束ねた髪
指でとかして
わけ入って光を
つかむ、あれは
蓮華畑の、
クローバーの、
ふくらはぎの、
駆け抜ける午後
舞い上がる緑の虫を追って
青い堤防を刃渡りする少年
触れば鳴り出すような四葉を
見つけた土手から
少女は跳んで
落下傘のように着地するスカート
そこは
仰向けで空を見る場所
赤い屋根の水防倉庫が
ちぎれ雲を引きとめて
長い歌を聞かせている
裏返りそうな声を
空の重さでおさえて
ひとり言のような
長い歌を

少女の首を持ち去る
鋼鉄の首飾り
開きかけた襟元を隠し
しずくの喉を、
霧の汗を、
芽吹きの匂いを、
逃がさないまま夜に連れ去る
街灯の光を集めて
断ち切られた路地をつないで
夜の地図を作る少年
ちぎった四葉を落として
青い匂いを散らかす少女
カバンに閉じ込めた蓮華を
置き忘れるような仕草で
曲がり角に葬る
少年は地図を塗り潰して
余白の少ない路地を曲がる
鋼鉄の首飾りが街をくるんで
夜の終わりは明日へ
先回りしている

名前を呼んでも黒髪の闇
足首をつかむ蓮華の群れ
いつしか仰向けで見ている空
ちぎれ雲を剥がしても何かある青
空を見ながら作る首飾り
茎を束ねても鳴り出さない午後
鍵の壊れた水防倉庫
錆ついたドアのきしみ
すきまからすきまへ逃げる風の音
首飾りの中
丸い空に
ひとり言のように
走っている傷

文学極道

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