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作品 - 20060306_029_1016p

  • [佳]  無常の - 樫やすお  (2006-03)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


無常の

  樫やすお

公園のトイレのガラスのない窓で
固い土に生えた松がゆれ
一羽のカラスが枝を越え
ボートを押した浅瀬
私はそこで足を止め
糸雨を浴びる
目をぬらし
捨てられた傘がばたばたと動くので
動くので、私は足を止め
追い立てられたように
顔を赤くする

 ★

踏み固められた地べたの
ブランコの下
が見えた
リボンは夜闇に赤く
もっと長くのびる
便器で圧された尻
を這うギョウチュウ
白い生き物の巣を一つ抱えた
窪地が 木が
不思議に怖かった

 ★

(ばばに乳を吸わされた)
箪笥のつめたい錠前を舐めた舌で
御前の傷口にキスして
やろう
引き出しの十円玉は
御前に全部
呉れてやる

 ★

仏壇の障子に穴を開け
空は明け
薄い窓のモザイクを漏れた
それは夕日
赤ん坊のようにして
足を止め
黒い金具ばかり見つめ
私はたしかに
死んだひいばばの声を聴いていた

私はすぐに襖を開けて返事する
「なにー」
 ――聞こえますか?
「なにー」
 ――聞こえますか?

ワタシノコエハキコエマシタカ?

 ★

なにが聞こえます 残響は
ピアノを弾いているのは
私です とどめることは
できません 
叩きつけられた音で
河畔がゆらめいて見えるのは あれは
私です とても長いあいだ枯れ葉に
圧されているのです

 ★

身をゆすり そうしてあなたは
世界のなかを
閉じました 私の傍へきて
たちなさい

――響きは、
  聞こえますか?

 ガラスのない ガラ
 スのない窓で松がわれわかれ私は
 死んだひいばばの声を聴いていた
 
 ボートを押した浅瀬
 私はそこで足を止め
 糸雨を浴びて
 目をぬらす

文学極道

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