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作品 - 20060125_509_930p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ジルコニア

  椎葉一晃

1 試作


巨大な高架を支える橋脚の柱石に
落ちている赤いライターを
右折車線の窓外に見る

 (あっちの崖でさ)
 (うん)
 (あの山の、海に突き出してる・・・)

下校する高校生 ベビーカーを推す女を
田舎の道で
フロントガラスの向こうに見る

 (一番大きい?)
 (そこらしいよ)
 (じゃーあれ嘘だったんだ)
 
ガード下のうらびれた公園の脇に落ちる階段
その真裏の支柱を背に車を停め
買ってきたハンバーガーを食べる

 (多分)
 (あたし海いきたいなー、家やだ)
 (あの崖のカーブ、海に突き出した・・・急な)

夕暮れの空に カーステレオが鳴る
ホルダーのシェイクに手をつける
空席のナビシートには目を遣らない

 (いこうよ)
 (海?) 
 (うん)

夜 山麓を川沿いに抜ける国道を走る
あの時と同じ景色
もう一度 海へ
 
 (行こうか)



川?
うん
川沿いなんだな

 (黎明の野に鬱勃する森の影
  遠景の稜線に朝陽が留まる
  静止した分暁の空)

暗いねぇ
夜の山だから
んー 

 (女は森へ その歩行に呼応し湧出する大理石が
  彼女の蹠を受け止める 歩揺する長い黒髪は
  その一揺れに束と落ちる)

やばい眠い、危ない
川がきれいだ       

 (女を追う 大理石の経路には
  瘢痕に蝕まれた肢体の残片が
  縷々と連なり重なっている)

見えるの?
ううん
ん?

 (ウッドソールと大理石の衝突に
  明滅する言葉らが、
  足元に散る肉塊を整複していく)

見えないけど
どっち
きれい

 (歩一歩と 致命的な歩み)



色石を展べた渥美の肌に
とりどりの華辞が彫金される

 (ここはシルバーでなく
  イエローゴールドで)

削りだされる浮文の四肢に
恍然と浅笑する女

 (シトリンを埋めて 半貴石がいい
  濁った石が好きなの)

肉体を失った言葉の幽霊が
逸遊する この際涯

 (虚辞の海風がまた私の肌を磨く
  この石も あの風も 一体誰の言葉なのだろう)
 
圏点を打たれた黒髪が号してる
シフォンの海 鉄の海畔 布と金属の海景

 (でも、どうしよう)
 

2 君へ

いつか、あの女との海へのドライブを、
記憶の捏造によって再開する為に。
そして君と、
意識の上に偽造した世界で再会する為に。

そう思っている。

文学極道

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