一枚の葉落ちを見るために
俺はここに来たんだろ
秋だった
せせらぎが清涼なフレーズを飛び落ちる
目を瞑ると
円の中心が点である故円周率は無限数であると知った
せつないほどに澄んだ
青空を見上げると
まだ土砂降りだった
アスファルトに飛沫をあげ
圧し潰されそうな動悸を真っ白い息にした
ずぶ濡れの俺は
そこに押さえ込まれ
手の甲に突き立てられたナイフは
熱くて
ねぇ
おまえはかならずねぇと云う
ぎこちなく鍵盤に触れた固い手に
そっと手を添える
傷跡を隠すような
俺は気恥ずかしくなり
目を瞑る
また秋だった
失ってきたものを思い出すと
何も失ってはいなかった
そして落ち葉は降り積もり
歩くたびに音をたてた
おびただしい葉落ちの描く螺旋が
楽譜に見える
まだこの世界に顕れていない
旋律を
俺はじっと耐えるように聴いている
冷たくなったその手を俺はじっと耐えるように握っている
病室の窓から
朝焼けが
燃えるような
はじまりが
滲んでしまっていた
俺は
歩き疲れて
また
おまえが子供のように追い越してみせて
微笑むときが来た
秋だった
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選出作品
作品 - 20060124_485_929p
- [優] 秋 - 橘 鷲聖 (2006-01)
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秋
橘 鷲聖